欠片かけら)” の例文
旧字:缺片
「そうだ、そうだ。いい事をした。——畜生、もう一度出て見やがれ。あたまの皿ア打挫ぶっくじいて、欠片かけらにバタをつけて一口だい。」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またパンの欠片かけら蜜柑みかんの皮といった食物まで運ばれていた——など、何が何やら、彼にとって薩張さっぱり訳の判らないことであった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一日の仕事を終えた工場では、四五人の従業員が、ラムネの瓶を箱詰にしたり、割れたガラスの欠片かけらを、竹箒で、掃き集めたりしている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこには唯こけの生えた上に煉瓦や瓦の欠片かけらなどが幾つも散らかつてゐるだけだつた。が、それは彼の目にはセザンヌの風景画と変りはなかつた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それを一瞬の間に、くつがえしてしまうような、怖ろしい力が現われたとき、人は不可抗とだけで、悔いの欠片かけらも残さずケロリと断念あきらめてしまうものである。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
雲一つない鋼鉄色はがねいろの空には、鎗の穂よりも鋭い星が無数にきらめいて、降つて来る光が、氷り果てた雪路の処々を、鏡の欠片かけらを散らかした様に照して居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
犬のくそだの、瀬戸物の欠片かけらだの、びたくぎだの、かぞえていると、やがて、後ろで、お蔦の呼ぶ声がした。門のきわに、その姿が見え、手招てまねきしていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は昼間階下したの暗いのにいて二階へあがつて来て居る子供等が、紙片かみきれ玩具おもちや欠片かけら一つを落してあつても
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
貧乏徳利の欠片かけらを細かにつぶして使うんだが、それがこの頃はだんだん上手になって、小さい南京玉をぶっ掻いて地金にするということを俺はかねて聴いている。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
冬や春は川底に味噌漉みそこしのこわれや、バケツの捨てたのや、陶器の欠片かけらなどが汚なく殺風景さっぷうけいに見えているのだが、このごろは水がいっぱいにみなぎり流れて、それに月の光や
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
売るものが留守るすろうはずは無し、どうしているか知らねえが、それでも帰るに若干銭なにがしつかんでうちえるならまだしもというところを、銭に縁のあるものア欠片かけらも持たず空腹すきっぱらアかかえて
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
血海の中に冷く光っているガラス瓶の欠片かけらでつけたものであろう、顔から頭へかけて物凄い掻傷かききず煮凝にこごりのような血を吹き、わけても正視に堪えぬのは、前額から頭蓋へかけてバックリ開いた大穴から
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
欠片かけら、氷。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「皿を壁へ叩きつけてね、そのまた欠片かけらをカスタネットの代りにしてね、指から血の出るのもかまわずにね、……」
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ネギの白味、豚の白味、茶碗の欠片かけら、白墨など。細い板の上にそれらのどれかをくくりつけ、先の方に三本ほど、内側にまくれたカギバリをとりつける。
ゲテ魚好き (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼の死には、人間の生理が一変してしまわないかぎり、どこにも、疑義の欠片かけらさえ差し挟む余地がないのである。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
割れた欠片かけらを、拾いあつめ、また、手車を押して歩きながら、彼は人中ののわるさと、憤りに血を熱くして
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生芋の欠片かけらさえ芋屋の小母おばさんが無代では見向きもしない時は、人間よりはまだ気の知れないばけものの方に幾分か憑頼ひょうらいがある、姑獲女うぶめを知らずや、嬰児あかんぼを抱かされても力餅が慾しいのだし
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瑞樹みづきだけでなくて沢山双生児ふたご欠片かけらが出来たと私は驚きます。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しよって、欠片かけらが顔に飛んだらしい。それが眼に入って、盲目めくらになるかも知れん、と書いてあった。それにびっくりして、おさんも寝こんでしもうとるげな
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
丸官の握拳にぎりこぶしが、時に、かわら欠片かけらのごとく、群集を打ちのめして掻分かきわける。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十郎は、ガラスの欠片かけらで、額に出来た傷に、絆創膏を貼っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
成程、羽織を着たものは、ものの欠片かけらも見えぬ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)