櫛巻くしま)” の例文
旧字:櫛卷
母は枕もとの看護婦に、あとの手当をして貰いながら、昨夜ゆうべ父が云った通り、絶えず白いくくり枕の上に、櫛巻くしまきの頭を動かしていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その様子を見るとまた身体からだでも良くないと思われて、真白い顔が少し面窶おもやつれがして、櫛巻くしまきにった頭髪あたまがほっそりとして見える。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そうまでもきますまいが、髪を洗って、湯に入って、そしてその洗髪あらいがみ櫛巻くしまきに結んで、こうがいなしに、べにばかり薄くつけるのだそうです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほつれ毛もないようなあの丸髷まるまげは空しくつぶされ、ぐるぐると櫛巻くしまきにした洗い髪が、えりにあてた手拭てぬぐいの上におくれ毛を散らばらせていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
内もひっそりしていて、菰被こもかぶりの据わった帳場の方の次の狭い部屋には、だるそうに坐っている痩せた女の櫛巻くしまき姿が見えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、ある横町の路地の奥で、櫛巻くしまきの女が洗濯しているのが見えた。そのわきにその女の子供らしい七、八つの男の子がいた。
うらうらと燃える陽炎かげろうを背に、無造作な櫛巻くしまき、小弁慶こべんけいあわせに幅の狭い繻子しゅす博多はかたの腹合わせ帯を締めて、首と胸だけをこううしろへ振り向けたところ
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
櫛巻くしまきとかいうものに髪を取上げて、小弁慶こべんけいの糸織の袷衣あわせと養老の浴衣ゆかたとを重ねた奴を素肌に着て、黒繻子くろじゅす八段はったんの腹合わせの帯をヒッカケに結び
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女は髪を櫛巻くしまきにして、洗いざらした手拭てぬぐい頬被ほおかぶり、紺飛白こんがすり半纏はんてんのようなものを着て、白い湯文字がまる出しだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
葉子と顔を見合わした瞬間には部屋へやを間違えたと思ったらしく、少しあわてて身を引こうとしたが、すぐ櫛巻くしまきにして黒襟くろえりをかけたその女が葉子だったのに気が付くと
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その櫛巻くしまきの肥っちょうづらを見ると思い出した。この女将かみさんは吾輩に度々特種を提供している。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
地味な着物に黒繻子くろじゅすの帯、長いこうがい櫛巻くしまきにした髪の姿までを話のなかに彷彿ほうふつさせて見せる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吉里は用事をつけてここ十日ばかり店を退いているのである。病気ではないが、頬にせが見えるのに、化粧みじまいをしないので、顔の生地は荒れ色は蒼白あおざめている。髪も櫛巻くしまきにしてきれも掛けずにいる。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「ウム。あだッぽい櫛巻くしまきの女? ……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母はくくり枕の上へ、櫛巻くしまきの頭を横にしていた。その顔がきれをかけた電燈の光に、さっきよりも一層やつれて見えた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二、三日わなかった懐かしい顔は櫛巻くしまきにつかねた頭髪あたまに、蒼白あおじろ面窶おもやつれを見せて平常いつもよりもまだ好く思われた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
見違えるほど血色にうるみが出来て、髪なども櫛巻くしまきのままであった。たけの高い体には、えりのかかった唐桟柄とうざんがら双子ふたこあわせを着ていた。お雪はもう三十に手の届く中年増ちゅうどしまであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もう向うを向いて布団に潜っていて、櫛巻くしまきの頭だけしか見えませんでした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
髪は櫛巻くしまきにつかねて、素顔を自慢に※脂べにのみをしたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪までやはり櫛巻くしまきにしていたのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
僕の母は髪を櫛巻くしまきにし、いつも芝の実家にたった一人すわりながら、長煙管ながぎせるですぱすぱ煙草たばこを吸っている。顔も小さければ体も小さい。その又顔はどう云う訳か、少しも生気のない灰色をしている。
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)