オール)” の例文
三田は此の人にまつは忌々いま/\しい噂を打消したやうなすつきりした氣持でオールを取あげると、折柄さしかゝつた橋の下を、双腕に力をこめて漕いで過ぎた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
そしてその合間合間に「短艇ボートなぞは孫子の代までやらせるもんじゃない」とか、「もう死ぬまでオールは握りたくない」
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
水面は、みるも厭らしいくらい黄色をした、鉱物質のおりが瘡蓋のように覆い、じつは睡蓮はおろか一草だにもなく、おそらくこの泥ではオールも利くまいと思われる。
「太平洋漏水孔」漂流記 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その上からモウ二枚帆布キャンバスを当てがって、周囲まわりをピッシリ釘付けにして、その上からモウ一つ、流れていたオールを三本並べながら、鎹釘かすがいで頑丈にタタキ付けてしまった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
端艇たんてい右舷うげん左舷さげんオールにぎめたる水兵等すいへいらも、吾等われら兩人りようにんかほて、一齊いつせいおどろき不審いぶかりまなこ見張みはつた。
そうして岸には長いオール蜈蚣むかで見たいにそろえた細長の独木舟オックダアが幾隻か波に揺られて、早くも飛び込むと持場持場を固めるオロチョンギリヤークの青年たちも勇ましかった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
川面かはもも段々夜の色になり、近々と腰かけてはゐるのだが、娘の顏もほの白く見えるばかりだつた。充分川幅の廣いところで、三田はオールをあげて舟を流れに任せた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
これまでこの川は、水中植物の繁茂が実におびただしいために、オールが利かず、さかのぼったものがない。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ふたゝ海面かいめんうかでゝ、いのちかぎりにおよいでると、しばらくして、彼方かなた波上はじやうから、ひと呼聲よびごゑと、オールとがちかづいてて、吾等われら兩人りやうにんつひなさけある一艘いつそう端艇たんていすくげられたのである。
久野はそれを直おすために、幾度も二番に軽るくオールを入れさせなければならなかった。艇首を曲げたまま出発しては、たださえ浅草岸へ向きたがる艇の癖を、一層激しくするようなものである。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
彼ははっと思って蘆の間に身を潜め、四辺あたりを見巡して微笑ほほえんだ。ここに敵の一人が見ているとも知らず、そのうち彼らは動き出した。整調のオールにつれて六本の黄色い櫂がさっと開いて水に入った。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
端艇競漕ボートレース本職ほんしよくことだから流行はやるのも無理むりいが、大事かんじん端艇ボートかつおこつた大颶風だいぐふうめに大半たいはん紛失ふんしつしてしまつたので、いまのこつてるのは「ギク」一さう、「カツター」二さうで、オール餘程よほど不揃ふぞろひなので