根附ねつけ)” の例文
あちこち見て歩く内、応接間というような室に、硝子の箱に紫色の天鵞絨ビロードを敷いて、根附ねつけが百ばかり、幾段かに並べてありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「もう一つ、三日前に八五郎が、この脇差と牙彫けぼり根附ねつけを一つ、十兩で吉三郎に賣つたさうだ。少しわけがあつて、それを返して貰ひたいんだが」
小僧こぞうを、根附ねつけで、こしところひきつけて、留桶とめをけまへに、流臺ながしだい蚊脛かずねをはだけて、せた仁王にわうかたち
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕の乗った舟を漕いでいる四十恰好がっこうの船頭は、手垢てあかによごれた根附ねつけ牙彫げぼりのような顔に、極めて真面目まじめな表情を見せて、器械的に手足を動かしてあやつっている。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
亥太郎さんが此品これを持っていると云うのは不思議でございますな、この煙草入たばこいれは皮は高麗こうらい青皮せいひ趙雲ちょううん円金物まるがなもの後藤宗乘ごとうそうじょうの作、緒締おじめ根附ねつけはちぎれて有りませんが、これは不思議な品で
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
象牙の根附ねつけ銀鎖ぎんぐさり附きたる菖蒲皮しょうぶかわさげ煙草入、駒下駄と云ふこしらへにて、きつかけなしに揚幕より出で、金五郎を呼び止めて意見をし、花道にいきかけたる勘十郎に向ひて、堪忍の歌を繰返し
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
しばしば緒締おじめ根附ねつけが伴うのは誰も知る通りである。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「言ひましたよ、あつしの煙草入れの根附ねつけを見て、そいつは氣に入つたから、脇差と一緒にゆづつてくれ——一つて」
お形見だといって、遺族の方から根附ねつけを二つ下さいました。木彫の馬と牛とでしたろう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
真鍮のこの煙管さえ、その中に置いたら異彩を放ちそうな、がらくた沢山、根附ねつけ緒〆おじめたぐい。古庖丁、塵劫記じんこうきなどを取交ぜて、石炭箱を台に、雨戸をよこたえ、赤毛布あかげっとを敷いて並べてある。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふたさげの——もうこの頃では、山の爺がむ煙草がバットで差支えないのだけれど、事実を報道する——根附ねつけの処を、独鈷とっこのように振りながら、煙管きせる手弄てなぶりつつ、ぶらりと降りたが
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの牙彫けぼり根附ねつけは、多令拔荷を受取る手形のやうなものだらう。
月夜つきよかげ銀河ぎんが絶間たえま暗夜やみにもくまある要害えうがいで、途々みち/\きつねたぬきやからうばられる、と心着こゝろづき、煙草入たばこいれ根附ねつけきしんでこしほねいたいまで、したぱらちからめ、八方はつぱうくばつても、またゝきをすれば
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)