木口きぐち)” の例文
大して大きくありませんが、離屋付の恐ろしく贅澤な構へで、木口きぐちや調度の良さは、さすが物馴れた平次の眼をも驚かします。
四間よましかない狭い家だったけれども、木口きぐちなどはかなり吟味してあるらしく子供の眼にも見えた。間取にも工夫があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この家は旧札差ふださしこしらえた家で、間口が四けんに二間半の袖蔵そでぐらが付いており、奥行は十間、総二階という建物で、木口きぐちもよろしく立派な建物であったが
かまへ可慎つつましう目立たぬに引易ひきかへて、木口きぐち撰択せんたくの至れるは、館の改築ありし折その旧材を拝領して用ゐたるなりとぞ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
首をもがれ、手を折られたあとの傷口からは、外見の黒ずんだ古めかしい色あいとは似ても似つかない、まだなまなましい白い木口きぐちが、のぞいていたではありませんか。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何と云う町なのか知らないけれども、郊外らしくひらけていて、新らしい木口きぐちの家が沢山建っていた。それでも、時々、廃寺のような寺があったり、畑や空地あきちなどがあった。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
驚きながら四辺あたりを見ますと、結構な木口きぐちの新築で、自分の姿なりを見ると、単物ひとえものそめっ返しを着て、前歯のりました下駄を穿き、腰にきたな手拭てぬぐいを下げて、頭髪あたま蓬々ぼう/\として
「如何にも住み心地の好さそうな家だね。君は凝り性だから木口きぐちも大分選んであるようだ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
親父おやじが死んでから春木町を去って小石川の富坂とみざかへ別居した。この富坂上の家というは満天星どうだん生垣いけがきめぐらしたすこぶる風雅な構えで、手狭てぜまであったが木口きぐちを選んだ凝った普請ふしんであった。
と、おれも、考えているのだが、時々、そうでないのかと思われる事がある。おそろしく、入念だ。それに、内蔵助自身が、普請好きとみえ、木口きぐちこのみ、仕事のやかましさ、職人共が弱っている程、がっしりと、土台から金を
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しもたや造りですが、暮しの良さが反映して、木口きぐちも見事、調度も相應、町人にしては先づ最上の暮し向きでせう。
普請は木口きぐちを選んで贅沢ぜいたくなことで建てゝから五年もったろうというい時代で、落着いて、なか/\席の工合ぐあいも宜しく、とこは九尺床でございまして、探幽たんゆうの山水が懸り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前の、妙法寺のように荒れ果てた感じではなく、木口きぐちのいい家で、近所が大変にぎやかであった。二階の障子しょうじを開けると、川添いに合歓ねむの花が咲いていて川の水が遠くまで見えた。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
木口きぐちは余り上等とも思わなかったが、く木ののする明るい新築だった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「東京辺の安料理屋よりかえって好いくらいですね」と自分は柱の木口きぐちとこの軸などを見廻した。嫂は手摺てすりの所へ出て、中庭を眺めていた。古い梅の株の下にらんの茂りが蒼黒あおぐろい影を深く見せていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元鳥越町の甚内橋じんないばし袂に、角倉かどくらのある二階建、せいぜい間数は六つ七つ、庭の広いのと、洒落しゃれ離屋はなれのあるのと、木口きぐちの良いのが自慢——といった家です。
アヽ大分だいぶうも御念入ごねんいりぢやなモシ、お棟上前むねあげまへこの門口かどぐちとほつたがじつうもえら木口きぐちれやはつて恐入おそれいりました、上方かみがたから吉野丸太よしのまるた嵯峨丸太さがまるた取寄とりよせての御建築ごけんちくとはえらいものや
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
シカモ余り広くはなかったが、木口きぐちを選んだシッカリした普請で、家財道具も小奇麗に整然きちんと行届いていた。親子三人ぎりの家族で、誰が目にも窮しているどころか、むしろ気楽そうに見えていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
稼業柄で木口きぐちの見事さ、拵えや調度は少し品が落ちますが、それでもザラの町家などには、見られない普請ふしんです。
丈夫一式で木口きぐちが橋板のように馬鹿に厚くっては、第一重くもあり、お飾り申した処が見にくゝって勿体ないから、一寸ちょっと見た処は通例の仏壇のようで、大抵な事ではこわれませんように
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)