望月もちづき)” の例文
「ござんせん」がイヤに「ござんせん」れがして甘ったるい。寄席よせ芸人か、幇間たいこもちか、長唄つづみ望月もちづき一派か……といった塩梅あんばいだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
相模国の住人、大庭おおばの三郎景親かげちかが関東八カ国随一の馬として献上したもので、黒い毛並だが額が少し白い、そこで望月もちづきと呼ばれた名馬である。
この美しき一組の燭臺、上より焔を放ちてそのあざやかなること澄みわたれる夜半よはの空の望月もちづきよりもはるかにまされり 五二—五四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いわゆるニルヤりがありカナヤ望月もちづきが、冉々ぜんぜんとして東の水平を離れて行くのを見て、その行く先になお一つのよりとうとい霊地の有ることを認め
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今ぞ鳴くらん望月もちづきの、関の清水を打越えても、これやこの行くも帰るも、蝉丸の社をくぐって来ても、二人ともに口をかなかったものですから
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
望月もちづきである。甲斐かい武田勝頼たけだかつよりが甘利四郎三郎しろさぶろう城番じょうばんめた遠江国榛原郡小山とおとうみのくにはいばらごおりこやまの城で、月見のえんもよおされている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やがて水戸浪士が望月もちづきまで到着したとの知らせがあって見ると、大砲十五門、騎馬武者百五十人、歩兵七百余
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのきさらぎの望月もちづきの頃に死にたいとだれかの歌がある。これは十一日の晩の、しかも月のかすかな夜ふけである。おとよはわが家の裏庭の倉のひさしに洗濯をやっている。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
夜は草木の上に眠れり。されど仰いでおほ空を見れば、皎々かう/\たる望月もちづき、黄金の船の如く、藍碧なる青雲の海にうかびて、こがれたるカムパニアの野邊に涼をおくり降せり。
「あなたは、明日の朝早く、憲兵隊司令部の望月もちづき少佐がここへ来られるのを知っていますか」
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自己満足の喜びの余りに「此世をばが世とぞおもふ望月もちづきのかけたることも無しとおもへば」
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
種々いろ/\云ってくれましたから、お前さん此処へ参ると、望月もちづきと云う書画なぞの世話をする人がって、其の人に道具を東京で買ってもらい、此処へ茶見世を出して居りますのも
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
下る身はならはしの者なるかな角摩川かくまがはといふを渡りて望月もちづき宿しゆくるよき家並やなみにていづれも金持らしこゝは望月の駒と歌にも詠まるゝ牧の有し所にて宿しゆくの名も今は本牧ほんまきと記しあり。
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
の世をばわが世とぞ思う望月もちづきの欠けたることの)無いように、勝平は得意だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かの京の島原にやられし十三のいもふとハ、としもゆかねバさしつまりしきづかい気遣なしとて、まづさしおきたり。夫ハさておき、去年六月望月もちづきらが死し時、同志の者八人斗も皆望月が如戦死したりし。
「まあ、望月もちづきさんのお上手なことったら」
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
この世をばわが世とぞおもふ望月もちづきの——
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すみわたれる望月もちづきの空に、トリヴィアが、天のふところをすべて彩色いろど永遠とこしへのニンフェにまじりてほゝゑむごとく 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
古賀が、後々の為めに好かろうと云うので、僕を某省の参事官の望月もちづき君という人に引き合せた。この人は某元老の壻さんである。下谷の大茂だいしげという待合で遊ばれる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
嫡子清水冠者しみずのかんじゃ義重という当年十一歳の息子に、海野うみの望月もちづき諏訪すわなどといった一騎当千の侍達を付けて、人質にさし出したので、頼朝も始めて義仲の本意を覚り、まだ子のないところから
「この山の上の望月もちづき様という郷士ごうし様のお邸へお嫁様が参りなさるそうで」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この世をばわが世とぞ思ふ望月もちづき
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
言えば、たぼが一枚欠けているだけのもんだ、この席へ、いま聞いたような咽喉のどが一本入れば、それこそ天上極楽申し分ないのだが——望月もちづきのかけたることのなしというのはかえって不祥だよ、この辺で浮きなよ、浮きなよ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)