押着おッつ)” の例文
わきの袋戸棚と板床の隅に附着くッつけて、桐の中古ちゅうぶるの本箱が三箇みっつ、どれも揃って、彼方むこう向きに、ふたの方をぴたりと壁に押着おッつけたんです。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男とも女とも弁別わさまえるひまなく、れてぐんなりと手の伸びるままに、細々と煙の立つ、その線香を押着おッつけたものであろう。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなた、私の心が見えましょう、と覗込のぞきこんだ時に、ああ、堪忍しておくんなさい、とその鏡を取って俯向うつむけにして、男がぴったりと自分の胸へ押着おッつけたと。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うむ、じゃアありません。そんなことをお言いだと私ゃ金魚をうらみますよ。そして貢さんのお見えなさらない時に、焼火箸やけひばし押着おッつけて、ひどい目に逢わせてやるよ。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにあのそれ呼吸器とかいうものを口へ押着おッつけてさ、おまけにひげを生やしてるじゃあないか。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何ッて、母親おふくろふところで寝ながら聞くと、これは笑っているばかり。父親おやじが店から声をかけて、魔物が騒ぐんだ、こわいぞ、と云うから、乳へ顔を押着おッつけて息を殺して寝たっけが。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人々々てんでてんでに人形だの、雛の道県だのを持ってる、三人目の、内裏様を一対、両手に持って、袖で掻合して胸に押着おッつけていたのがお夏さん、夜目にも確か、深川中探したって
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのなが六畳の、成りたけ暗そうな壁の処へ、紅入友染べにいりゆうぜんの薄いお太鼓を押着おッつけて、小さくなったが、顔のあかるい、眉の判然はっきりした、ふっくり結綿ゆいわた角絞つのしぼりで、柄も中形も大きいが
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なまずが這うように黒被布の背を乗出して、じりじりと灸を押着おッつけたもの、たまろうか。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手を入れて労り取って、二十四の梓は嬉しそうに、縁側を伝って夫人竜子の寝室ねやって、寝台ねだいの枕頭に押着おッつけて、呼起して、黄鳥うぐいすを手柄そうに見せると、冷やかに一目見たばかり。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とか云って遊女おんなが、その帯で引張ひっぱるか、階子段はしごだんの下り口で、げる、引く、くるくる廻って、ぐいと胸で抱合った機掛きっかけに、頬辺ほっぺた押着おッつけて、大きな結綿ゆいわたの紫が垂れかかっているじゃないか。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七月目の腹籠はらごもり、蝮が据置かれた硝子がらす戸棚は、蒼筋あおすじの勝ったのと、赤い線の多いのと、二枚解剖かいぼうの図を提げて、隙間一面、晃々きらきらと医療器械の入れてあるのがちょうど掻巻かいまきすその所、二間の壁に押着おッつけて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝惚ねぼけたように云うとひとしく、これも嫁入を恍惚うっとりながめて、あたかもその前に立合わせた、つい居廻りで湯帰りらしい、島田の乱れた、濡手拭ぬれてぬぐいを下げたしんぞすそへ、やにわに一束の線香を押着おッつけたのは
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目の見えないは、さみしそうに坐ったきりで、しきりに、夫人の膝から帯をかけて両手で撫でるし、坊やは肩から負われかかって、背ける顔へ頬を押着おッつけ、かわす顔の耳許みみもとへかじりつくばかりの甘え方。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それだってよ、それでもよ、ひげ押着おッつけやがるじゃねえか。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝶吉は振乱すように壁に押着おッつけた島田髷しまだゆすぶって
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)