快哉かいさい)” の例文
それを仰ぎながら李逵は心から快哉かいさいを叫んだ。——ああこれで俺の過失もさいの大旦那の一命だけは拾って幾分かはまずつぐない得た、と。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ざまを見ろと快哉かいさいを叫びたいところですが、まだ相手は次々とどんな手を打って来るかは判らないのですから、油断はできません。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかも、母も美和子も、書留の来たことさえ、気がつかなかったのは、まことに幸運だったと、圭子の心は快哉かいさいを叫んだのである。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
国民が快哉かいさいを絶叫する声が聞えるようじゃないか。そこでこのわしが何者であるかということが分ったかね。エ、新一、わしは一体何者だね
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いずれにしても彼が故意に内匠頭を痛めつけ、彼にキリキリ舞いをさせることによって快哉かいさいを叫ぶというような人柄でなかったことだけは明白である。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
案をって快哉かいさいを叫ぶというのは、まさに求めるものを、その求める瞬間に面前にらっしきたるからこそである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私はそのとき以来、兄たちが夏休み毎に東京から持って来るさまざまの文学雑誌の中から、井伏さんの作品を捜し出して、読み、その度毎に、実に、快哉かいさいを叫んだ。
『井伏鱒二選集』後記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
統一のための統一に無味無色の階段を昇り降りし続けている物理学生と絶交して快哉かいさいの冠を振った。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
確堂らの一行は偶然大槻磐渓、桂川月池かつらがわげっち、遠田木堂、春木南華らの同じくを舟に載せて来るに会い、互に快哉かいさいを呼んで某楼に上り満月の昇るを待って長堤を歩んだ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けだしその論や卓々、その文や磊々らいらい、余をしてしばしば巻をおおい覚えず快哉かいさいと呼ばしめたりき。
将来の日本:01 三版序 (新字新仮名) / 新島襄(著)
けだしその論や卓々、その文や磊々らいらい、余をしてしばしば巻をおおい覚えず快哉かいさいと呼ばしめたりき。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
雨夕風晨うせきふうしんなおよく最妙極楽の光景を現し、一望たちまち快哉かいさいを叫び、手の舞い足の踏むを知らざるの妙境に達することを得るは、実に不思議中の不思議ではありませぬか。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
荘先生がそなたの我儘を見に来たと云われたのは却ってそなたののびのびして生きて居られる様子を快哉かいさいに感じられ「道」を極める荘先生に好い影響さえお与え申したのだ。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
高潔婉麗の筆、高雅端壮の文、情義兼ね至り、読者をして或は粛然えりを正さしめ、或は同情の涙を催さしめ、また或は一読三歎、つくえを打って快哉かいさいを叫ばしむるところもある。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
吾輩もこの小僧を少々心憎く思っていたから、この時心中にはちょっと快哉かいさいを呼んだが、学校教員たる主人の言動としてはおだやかならぬ事と思うた。元来主人はあまり堅過ぎていかん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クラフト氏は近ごろ報道記者として、その文体および趣味に驚くべきものがあることを証明し、音楽界に一大快哉かいさいを叫ばしめた。その時彼は親しく、むしろ作曲に没頭するよう勧告せられた。
白煙濛々もうもうと立昇る地獄穴溶岩ようがんを覗いて、未醒みせい画伯と髯将軍、快哉かいさいを叫んで躍り上がったところが、たちまち麓から吹き上ぐる濃霧に包囲されて、危うく足踏み外し白煙中へき込まれんとし、二人
柄にもなくこんな句を思い出していささか悵然ちょうぜんとしながら、あの乞食先生はどうしたろう? さぞ今ごろは泡をくらってこの与吉を探しているに違えねえ、ざまア見ろ! と心中に快哉かいさいを叫んだ時
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
子路をして心からの快哉かいさいを叫ばしめるに充分な出来事ではあったが、この時以来、強国斉は、隣国りんこくの宰相としての孔子の存在に、あるいは孔子の施政しせいもとに充実して行く魯の国力に、おそれいだき始めた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そうかと思えば忽ちに崩れて、快哉かいさいを叫ぶようなこともある。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と俺は快哉かいさいを叫んだ。ヤーさまの言うシメテンである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
天邪鬼は、どん底において快哉かいさいを叫ぶ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
味方は、声をあげて、快哉かいさいをさけんでいたが、そのていに驚いて、たちまち彼のそばに駈け寄り、家康のそばまで、抱えて来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただわけもなく猛獣をちまたに放して、市民を恐怖せしめて快哉かいさいを叫ぶためであろうか。それとも、もっと別の深いわけがあったのではなかろうか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あるいはまたあまりに枯淡なる典型におちいり過ぎてかえって真情のうるおいに乏しくなった古来の道徳に対する反感から、わざと悪徳不正を迎えて一時の快哉かいさいを呼ぶものとも見られる。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小次郎は快哉かいさいをさけんだがふと、血ぬられた物干竿を自分の手にながめると、この始末は一体どうしたものかと思い惑った。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
原始人の本能が、かれの体内によみがえり、胸いっぱいの快哉かいさいを絶叫していた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これを見ていた近所界隈かいわいの住民は、身の恐ろしさも忘れたように、わっと快哉かいさいの声をその人旋風ひとつむじの行方へ送っていたという。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひそかに快哉かいさいを叫ぼうという下心ではあるまいか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、やがての快哉かいさいを——その八絃の夢がれて、お小夜が怨歎えんたんする日のこころよさを——昨日きのうも今日も、ひそかに待ちつつ、土用の休み日を暮していた。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちゅうの煙をみるたび、谷が吠えるような喊声かんせいである。火の雨の下にある城兵の混乱ぶりを想像しての快哉かいさいなのだ。だが、矢ごろには限界がある。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うまうまと孔明のはかりごとに乗って、十数万のむだ矢を射、大いに敵をして快哉かいさいを叫ばせているという甚だ不愉快な事実が、後になって知れ渡って来たからである。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日はもう酒を飲んでただ快哉かいさいをいっている日ではない。理想から実行へ、第一歩を踏みだす日である。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてそのふたつのおおきな眼にも快哉かいさいきわまるかの如き情をらんらんと耀かしながら、帷幕いばくの諸大将をぎょろぎょろ見まわしつつ、足をそばだててこうわめきまたこう号令を発した。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この上は、あくまで戦うぞ」と、その炎を見て、いたずらに快哉かいさいをさけんだ。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、独りひそかな快哉かいさいを叫んでもいた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)