必竟ひっきょう)” の例文
必竟ひっきょうずるに自分を離れたものでないという意味から、汚い事でも何でも切実に感ずるのは吾人の親しく経験するところであります。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かかる無辜むこの人々をごうも罰する理由はない。もしその罪を問うことが必要ならば、必竟ひっきょうその罪の帰するところは彼らにあらずして全く私に在るのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大臣の二、三男が家をわかてば必ず小姓組たるの法なれば、必竟ひっきょう大臣も小姓組も同一種の士族しぞくといわざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
某国の他教を禁ずる、必竟ひっきょう自国の平安を保つの主意にいづるがごときは、すなわちこれを禁ずるの権利あり。
必竟ひっきょう学問を字を習い書を読む上にのみ求めんとせしは我が誤ちなりし、造化至妙の人世という活学校に入りて活字をなすべしと、弱りたる気を自ら皷舞して活発に働きしゆえ
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
このような幻想を彼岸生活として持つものの永生の願望は、必竟ひっきょう現世げんせを完全にして無限に延長しようとするに異ならない。しかもその現世の完成が、暴王の企てたところと方向を同じくする。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
大原満の失敗も必竟ひっきょうずるに食物上の無智識より起れるなり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その結果が網膜もうまくを刺激しようが、連想を呼び起そうがいっこう構わんので、必竟ひっきょうずるに彼の興味は色彩そのものに存するのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
というのは必竟ひっきょう独立心に乏しくただ他によって自分の幸福を全うしよう、今得て居る状態よりよい状態を得たいという慾望、これはまあ人として当り前の事で
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
平岡の方から見れば、猶更なおさらそうであった。代助は必竟ひっきょう何しに新聞社まで出掛て来たのか、帰るまでついに問い詰めずに済んでしまった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを基礎から打ち崩して懸かるのは大変な難事業だし、又必竟ひっきょう出来ない相談だから、始めよりなるべく触らない様にしている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてそれを食う時に、必竟ひっきょうこの菓子を私にくれた二人の男女なんにょは、幸福な一対いっついとして世の中に存在しているのだと自覚しつつ味わった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして彼らは必竟ひっきょう夫婦として作られたものか、朋友ほうゆうとして存在すべきものか、もしくはかたきとしてにらみ合うべきものかを疑った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるところあの烏は惚れてるなと感じるのは、つまり烏がどうのこうのと云う訳じゃない、必竟ひっきょう自分が惚れているんでさあ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてそれを思い合わせると、いつも似寄った刻限なので、必竟ひっきょうは毎朝同じ車が同じ所を通るのだろうと推測した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のみならず、その疑いをまた弁解しようとしている。彼は必竟ひっきょう正気なのだろうか、狂人なのだろうか、——僕は書物を手にしたまま慄然りつぜんとして恐れた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょうは釣をしないからああいう風に厭世的えんせいてきになるのだと合点がてんして、むやみに弟を釣に引張り出そうとするのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助には父母未生以前という意味がよく分らなかったが、何しろ自分と云うものは必竟ひっきょう何物だか、その本体をつらまえて見ろと云う意味だろうと判断した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その喜怒哀楽は必竟ひっきょうするに拘泥するに足らぬものであるというような筆致が彼らの人生にもたらきた福音ふくいんである。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょう自分は東京の中に住みながら、ついまだ東京というものを見た事がないんだという結論に到着すると、彼はそこにいつも妙な物さびしさを感ずるのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はただ彼の顔色が少しあおくなったのを見て、これは必竟ひっきょう彼が自分の強い言語にたたかれたのだと判断した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は暗い夜をあざむいて眼先にちらちらする電灯の光を見廻して、自分をその中心に見出した時、この明るい輝きも必竟ひっきょう自分の見残した夢の影なんだろうと考えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょうずるに自然は元の自然で自分も元の自分で、けっして自分が自然に変化する時期が来ないごとく
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょう私にとって一番楽な努力で遂行すいこうできるものは自殺よりほかにないと私は感ずるようになったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もっともだ。お前のいう通りだ。けれども、おれ身体からだ必竟ひっきょう己の身体で、その己の身体についての養生法は、多年の経験上、己が一番く心得ているはずだからね」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、まことに言語同断ごんごどうだんで、ああ云うのは必竟ひっきょう世間見ずの我儘わがままから起るのだから、ちっとらしめのためにいじめてやるが好かろうと思って、少し当ってやったよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
島田がそんな心配をするのも必竟ひっきょう平生へいぜいが悪いからなんだろうよ。何でも嫌われているらしいんだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は奥歯に物のはさまったような兄の説明を聞いて、必竟ひっきょうそれがどうしたのだという気を起した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古代の哲学者のように、空を飛んで行く矢へ指をさして今どこにいると人に示す事ができないから、必竟ひっきょう矢は動いていないんだなどという議論もやれないでもありません。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれの責任じゃない。必竟ひっきょうこんな気違じみた真似まねを己にさせるものは誰だ。そいつが悪いんだ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども門野の答は必竟ひっきょう前と同じ事を繰り返すのみであった。でなければ、好加減いいかげんな当ずっぽうに過ぎなかった。それでも、代助には一人で黙っているよりもこらやすかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょうずるにただ真と云う理想だけを標準にして作物に対するためではなかろうかと思います。現代の作物に至ると、この弊を受けたものは枚挙にいとまあらざるほどだろうと考える。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その死ぬ少し前に例の通り細君が看病のため枕辺へ寄り添いますと、男はいつになく荒々しい調子で、手をもって細君を突き退けるばかりに、押し返して、御前は必竟ひっきょう芸術家だ。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょう無理な注文に過ぎん。しかしながら猫といえども社会的動物である。社会的動物である以上はいかに高くみずから標置するとも、或る程度までは社会と調和して行かねばならん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野々宮の様な外国に迄聞える程の仕事しごとをする人が、普通の学生同様な下宿に這入つてゐるのも必竟ひっきょう野々宮がえらいからの事で、下宿がきたなければきたない程尊敬しなくつてはならない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女はひとみさだめて、三四郎を見た。三四郎は其ひとみなかに言葉よりも深き訴を認めた。——必竟ひっきょうあなたのためにした事ぢやありませんかと、二重瞼ふたへまぶたの奥で訴へてゐる。三四郎は、もう一遍
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そうして約一年ばかり、寸時の間断なく、その全勢力の支配を受けさせたいのです。兄さんのいわゆる物を所有するという言葉は、必竟ひっきょう物に所有されるという意味ではありませんか。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょうわれらは一種の潮流の中に生息しているので、その潮流に押し流されている自覚はありながら、こう流されるのが本当だと、筋肉も神経も脳髄も、すべてが矛盾なく一致して、承知するから
女はひとみを定めて、三四郎を見た。三四郎はその瞳のなかに言葉よりも深き訴えを認めた。——必竟ひっきょうあなたのためにした事じゃありませんかと、二重瞼ふたえまぶたの奥で訴えている。三四郎は、もう一ぺん
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野々宮のような外国にまで聞こえるほどの仕事をする人が、普通の学生同様な下宿にはいっているのも必竟ひっきょう野々宮が偉いからのことで、下宿がきたなければきたないほど尊敬しなくってはならない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああいうものが続々生れて来て、必竟ひっきょうどうするんだろう」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最後に広田先生は必竟ひっきょうハイドリオタフヒアだと思った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)