徹宵てっしょう)” の例文
殊に歳暮さいぼの夜景の如き橋上きょうじょうを往来する車のは沿岸の燈火と相乱れて徹宵てっしょう水の上にゆらめき動く有様銀座街頭の燈火よりはるかに美麗である。
前方の一段高い上甲板には、定めし舵手だしゅ徹宵てっしょうの見張りを続けているのでしょうが、今人見廣介の立っている所からはそれも見えません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
多分の冒険意識をもって徹宵てっしょう巴里の裏町から裏まちをうろつくつもりで、ちかちかする星とタキシの——に追われ追われて真夜中の二時ごろ
名人の内に宿る射道の神が主人公のねむっている間に体内をけ出し、妖魔ようまはらうべく徹宵てっしょう守護しゅごに当っているのだという。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それで、医師の合田氏は、これはいけないと非常な丹精をしてくれまして、夜も帰宅かえらず、徹宵てっしょう附き添い、薬も自身せんじて看護してくれられました。
「一風呂浴びて来て、飲み直しじゃ。今夜こよい徹宵てっしょうるも面白かろう。湯から上って来るまでに、娘を伴れてきておけ。湯壺へは、誰も来るでないぞ。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
官兵衛は、説客として、まず彼の門をたたき、徹宵てっしょう、天下を談じ、風雲の将来をぼくし、また武士の心胸しんきょうをひらいて
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探偵犬は付近に移されて出動を待っていた。すべての暗い辻、街燈の乏しい広場には、そこに面する家の二階に刑事が張り込んで徹宵てっしょう窓から眼を光らせた。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼女が芝居見物の日は、前の晩から家中の奥のものは徹宵てっしょうする。暁方あけがたに髪を結ってお風呂にはいる。髪結は前夜から泊りきりで、二人の女中が後から燈をもっている。
生気溌剌はつらつたるもので、学生たちは下宿で徹宵てっしょう、新兵器の発明にいて議論をして、それもいま思うとき出したくなるような、たとえば旧藩時代の鷹匠たかじょうに鷹の訓練をさせ
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
仄聞そくぶんするところに依ればひそかに九大精神病科の自室に引返し徹宵てっしょう書類を整理していたともいう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お手紙を見て驚喜きょうき仕候、両君のへやは隣室の客を驚かす恐れあり、小生の室は御覧の如く独立の離島に候間、徹宵てっしょう快談するもさまたげず、是非此方このほうへ御出向き下され度くち上候
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それがために、しかしわが家ながら、他家のごとく窮屈に思われ、夏の夜をうちわ使う音さえ遠慮がちに、近ごろにない寂しい徹宵てっしょうの後に、やッと、待ち設けた眠りをむさぼった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
いま戦線にある筈の、同じ連隊の三中隊に援兵すべく徹宵てっしょう行軍していたときであった。鉄道線路添いに高梁コウリャン畑を縫って前進していると遠くに銃声の絶え間ないひびきを聞いたのだった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
イエスは夕方過ぎ群衆を返されて後、暁の四時ごろまで徹宵てっしょう祈り給うたのであります。
胸から出る息には悲痛な音が交じっていた。その音はその種の病気に固有なものであって、眠りについてる死にひんした子供のそばで徹宵てっしょう看護する母親らの胸を痛ましめるところのものである。
日本街では婦人や子供を避難所へ送った後で町会組織の警備隊が勇ましく街を守って徹宵てっしょうを続け始めた。すると、彼の身体の中で、秋蘭を愛した記憶の断片が、にわかに彼自身の中心を改め始めた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
徹宵てっしょう人通りと酔漢の大声を伸子は窓の下に聞いた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして、その夜は三名の私服刑事が、徹宵てっしょう邸の内外の見張りをしてくれることになったが、しかし、この警視庁の好意はもう手おくれであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吉例により乾雲丸と坤竜丸を帯びた一、二番の勝者へするめ搗栗かちぐりを祝い、それから荒っぽい手料理で徹宵てっしょうの宴を張る。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼の家へ行って酒が出れば、いつもさかな塩鮭しおざけときまっている。それで口には贅沢ぜいたくを言い、人の馳走ならば、徹宵てっしょうの快飲もやる。実に見えすいているじゃないかと。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長屋の悪太郎長竿を振って富家の庭に入り蝉を追い花を盗むも人深く此を咎めず。書生避暑地の旅舎に徹宵てっしょう酔歌放吟して襖を破り隣室の客を驚かすも亭主また之を制せず。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一刻も早く彼女に関する事実の一切を貴下に御報告申し上げて、後日の御参考に供して置かねばならぬ責任を感じましたから、かように徹宵てっしょうの覚悟で、この筆を執っている次第です。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は、前夜から同室していた刑事に、徹宵てっしょう警戒されていたのだということだった。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
イエス様は実にこの問題について、徹宵てっしょう祈り給うたのです。その祈りにおける戦いがまさに勝利をもって終わらんとした時、神はモーセとエリヤとを遣わしてイエスを力づけ給うたのです。
この店では毎晩、番頭、少年店員、警務さん、とびのものなど、数十人の当直員を定めて、広い店内を隅から隅まで、徹宵てっしょう見廻らせることになっていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
徹宵てっしょうの評議、そして、急転下にまとまった藩論の一致。草雲は、完全に、衆を一つにした。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわしのヌタに蒲鉾かまぼこさかなだったというが、二人とも長酒で、そんな場合はいつも徹宵てっしょう飲み明かすのが習慣だったので、娘さんは肴に心配をして近所の乾物屋から干鰯を買って準備していたというね。
無系統虎列剌 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その夜ベツレヘムの郊外で、徹宵てっしょう羊をっていた若者たちがいた。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
「それに、暇がない。今夜徹宵てっしょう別所殿と相談のうえ——」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)