微笑わら)” の例文
母親は、そう言うたときに父親がっている窓口を見た。ふたりは微笑わらいあったが、どの微笑いも満足そうな色を漂わしていた。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これは厄介なことになったと思っていると、やさしく微笑わらいながら、「あなたは誰方でしたでしょうか?」と問いかけるのです。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
「今日」と、お宮はうれしさを包みきれぬように微笑わらい徴笑い「これから? おそかなくって?」行きとうもあるし、躊躇ためらうようにもいった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
チチコフは革のクッションの上で軽く揺れながら、ただニコニコと微笑わらっていた。彼も矢のように馬を飛ばせることが好きだったからである。
彼は親切な微笑わらいかたをした。そして人と話しているとき、時々愛情ぶかく励ますような様子をした。その代わり、声を
その美しい薔薇色ばらいろほおを猫の額へ押し当て、真珠のような美しい歯を現わしてゆッたりと微笑わらッたが、そのにっこりした風はどんなにあどけなく
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
鷲尾が畳みかけると、微笑わらっている無邪気そうな眼の中を、おそろしくせたものが一瞬キラリとよぎったと思われた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
武は上がってふすまをあけると、座敷のまん中で叔父おじ叔母おばさし向かいの囲碁最中! 叔父はちょっと武を見て、微笑わらって目で挨拶あいさつしたばかり。叔母は
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ええ、いいんです。」ジョバンニは、少し肩をすぼめて挨拶あいさつしました。その人は、ひげの中でかすかに微笑わらいながら荷物をゆっくり網棚あみだなにのせました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
緋桃ひとうが、連翹れんぎょうが、樝子しどみが、金盞花きんせんかが、モヤモヤとした香煙の中に、早春らしく綻びて微笑わらっていた。また文弥君が、最前の短歌を繰り返し繰り返し、朗詠しだした。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
濡れ燕の豪刀を、かた手大上段に振りかぶった丹下左膳、刀痕の影を見せて、ニッと微笑わらった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
学の権威けんいについて云々うんぬんされては微笑わらってばかりもいられない。孔子は諄々じゅんじゅんとして学の必要を説き始める。人君じんくんにして諫臣かんしんが無ければせいを失い、士にして教友が無ければちょうを失う。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と紅をさした頬で微笑わらった。髪の黒い、黒い眼のキラキラした痩せぎすの彼女にとって、マダム・ブーキンというのは頬に紅をさすのと同じに、一つの趣味に過ぎないのだろう。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そのひとの眼、愛情がそのなかで微笑わらっている、そのひとの凉しい眼は、あなたにとっては宇宙よりも広く感じられ、世界の何ものよりもあなたの心を惹くように思われるのです。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
なに、クイロスの画に——というような儀右衛門の眼に、法水は再び微笑わらった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「眼がよく出來てる。色も光線も表情も完全だ。微笑わらつてゐる!」
そのくずれて行くのを眺めてあなたが微笑わらうのを見たい
母は微笑わらって「え、大きに。」といった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
お母さんは静かに微笑わらっていました。
もぐらとコスモス (新字新仮名) / 原民喜(著)
三四郎は微笑わらわざるをえなかった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いまはのきはに吾等は微笑わらはう
酒盗人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そのことも、何時いつの間にか児太郎にはわかっていたらしかった。行燈あんどんのかげで、静かに微笑わらってみせ、自分でわざと酒をついでやったりした。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
令嬢パンノチカはにつこり微笑わらつた。すると処女をとめたちは叫び声をあげながら、今まで鴉になつてゐた女をつれて、行つてしまつた。
私が入口に入る姿を見ると、すぐ上り口の間で炬燵こたつにあたっていた加藤の老人夫婦は声をそろえて微笑わらいながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「ええ、いいんです」ジョバンニは、少しかたをすぼめてあいさつしました。その人は、ひげの中でかすかに微笑わらいながら荷物にもつをゆっくり網棚あみだなにのせました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いま窓の外に在っていい眼つきで私を見て微笑わらっている月とも、そうです、私もはじめは私の窓辺を訪れてくれたこの友達に対して、よそよそしくしていましたが
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
二十歳はたちか、二十一か、スウッと切れ長な眼が、いつも微笑わらって、何ごとがあっても無表情な細ながい顔——難をいえば、顔がすこし長すぎるが、とにかく、おっそろしい美男だ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼も今更とめるわけにも行かず微笑わらいながら伯父の動作を眺めていた。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
三四郎は微笑わらはざるを得なかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いまはのきはに吾等は微笑わらはう
酒盗人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
小さい弟は微笑わらっただけで別にそれについては返辞をしなかった。顔いろの悪いのはこの前会ったときと同じかった。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それから後というものは、コワリョーフ少佐はいつ見ても上機嫌で、にこにこ微笑わらっており、美しい女という女を片っ端から追っかけまわしていたものだ。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
「雪岡さん、頭髪かみなんかつんで、大層綺麗におめかしして。」と、尚お私の方を見て微笑わらっている。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
にやり微笑わらって委細承知した彦兵衛、一足先に部屋を出て、急ぎ梯子段を下りて行く音。
拍手はくしゅと一処に六七人の人が私どもの方から立ちましたが祭司次長が割合前の方のモオニングの若い人をさしまねきました。その人は落ち着いた風で少し微笑わらいながら演説しました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
外に聴えないように微笑わらっては話をし、話がなくなると遠慮深くまた微笑うという、時間の愉しさがあるらしかった。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
何時か西洋の演劇雑誌で見たことのある、西洋あちら女俳優おんなやくしゃのような頭髪かみをしている、と思って私はあおむけに寝ながら顔だけ少し横にして、凝乎と微笑わらい/\女の姿態ようすに見惚れていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
義理にも微笑わらうどころか、誰に対してもお愛想一ついうでなし、もしそんな時何か事件でもあろうものなら、藤吉親分ともあろうものが、鉄瓶が吹きこぼれたほどの、どんな詰らないことでも
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのおほきな光る人が微笑わらって答へました。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
男にはあきらかに女ができていることも、そとで初めて明るく微笑わらえることをも、女はいつのまにか感じていたけれど、女はしつこく黙って、いつも
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
六尺近い、大兵だいひょうの峰丹波である。そう太い声で言って、にっと微笑わらった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と婆さんは、言葉に甘味うまみを付けて、静かに微笑わらいながら、そう言った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
マリヴロンは思わず微笑わらいました。
マリヴロンと少女 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はじめのうちは彼女は彼をうすきみ悪く眺めていたが、このごろになって微笑わらって通ってゆくようなことがあった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
長火鉢の向うに私を坐らせて微笑わらい微笑いいった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
にじは思わず微笑わらいました。
めくらぶどうと虹 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それが私の方に向くと、私は私で、どういう気むずかしい時にでも、すぐ柔らかい心持になって、可憐な微笑に対して、つい目で微笑わらい返してやるのであった。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
微笑わらって兄をなだめ出す。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
起きて何か考えるかと思うときゅうに微笑わらい出したりするのが、くらい行燈のかげになって無気味だった。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
微笑わらって兄をなだめ出す。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)