御櫃おはち)” の例文
だから突然この小舅こじゅうとと自分の間に御櫃おはちを置いて、互に顔を見合せながら、口を動かすのが、御米に取っては一種な経験であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「古道具屋で御櫃おはちを決して買ってはいけない。」
だから突然とつぜんこの小舅こじうと自分じぶんあひだ御櫃おはちいて、たがひかほ見合みあはせながら、くちうごかすのが、御米およねつては一種いつしゆ經驗けいけんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
婆さんは、飯を済ました後と見えて、下女部屋で御櫃おはちの上にひじを突いて居眠りをしていた。門野は何処へ行ったか影さえ見えなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
飯のを離れる事約二昼夜になるんだから、いかに魂が萎縮しているこの際でも、御櫃おはちの影を見るや否や食慾は猛然として咽喉元のどもとまで詰め寄せて来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前足で上にかかっている菜っ葉をき寄せる。爪を見ると餅の上皮うわかわが引き掛ってねばねばする。いで見ると釜の底の飯を御櫃おはちへ移す時のようなにおいがする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
流し元の小桶こおけの中に茶碗と塗椀が洗わないままけてあった。下女部屋をのぞくと、きよが自分の前に小さなぜんを控えたなり、御櫃おはちりかかって突伏していた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなに山盛にしないうちに早くめてしまえばいいにと思ったが、例のごとく、吾輩の言う事などは通じないのだから、気の毒ながら御櫃おはちの上から黙って見物していた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御三おさんはすでにたての飯を、御櫃おはちに移して、今や七輪しちりんにかけたなべの中をかきまぜつつある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御米は女だけに声を出して笑ったが、御櫃おはちふたを開けて、夫の飯をよそいながら
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御米およねをんなだけにこゑしてわらつたが、御櫃おはちふたけて、をつとめしよそひながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ながもと小桶こをけなか茶碗ちやわん塗椀ぬりわんあらはないまゝけてあつた。下女部屋げぢよべやのぞくと、きよ自分じぶんまへちひさなぜんひかえたなり、御櫃おはちりかゝつて突伏つつぷしてゐた。宗助そうすけまたでふいてくびんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)