弥次やじ)” の例文
旧字:彌次
その柩前きゅうぜんに『コラン聖典』を運ばせ唱師から泣き婆まで傭うて人間同様の葬式行列を行い、ことあらわれて弥次やじり殺されかけた由を載す。
何か弥次やじが飛んだようだけれど、はっきり聞えない。向うの方で、麦酒瓶がくだける音がした。そして、雑然たる合唱がはじまった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
卑屈な落首の作者は、暗に信長の革新政治を弥次やじっているが、それは彼らの不平だけで、民衆の心を代表してはいなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつの場合でもそうだが、今日の先生はいつもより一層謹厳な態度だったので、弥次やじ学生もそれ以上弥次質問をする事が出来ず、黙って終った。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ミーちゃんとその若者との間に何かあるのだろうか、どうやらその何かを弥次やじっているらしいことが事情を知らない私にも、その声から察せられた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
それは、四月三日の夜、神田の青年会館に文化学会主催の言論圧迫問責演説会というのがあって、そこへ僕らが例の弥次やじりに行った事を書いた記事だ。
新秩序の創造:評論の評論 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
しかし、ここでは聴衆というものがないのだから、道庵自身がそれを問題にしない限り、弥次やじる者も、笑う者もありませんから、いよいよ図に乗って
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
学年始めの式の朝登校すると、控所でかたまりになつて誰かれの成績を批評し合つてゐた中の一人が、私を弥次やじると即座に、一同はわつと声をそろへて笑つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あの朝鮮語のふざけた弥次やじを聞くのが又大好きと来ている。思わず吹き出してしまう。これはどうにか一種のセンチメンタリズムと云えたものかも知れない。
故郷を想う (新字新仮名) / 金史良(著)
これもその前の弥次やじのけんかと見物の群集とがなかったら、おそらくなんの意味もないただの写真としか見えないであろう。やはりフランス人には俳諧はいかいがある。
映画雑感(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
余は思わず弥生半やよいなかばに呑気のんき弥次やじと近づきになったような気持ちになった。このきわめて安価なる気燄家きえんかは、太平のしょうを具したる春の日にもっとも調和せる一彩色である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
弥次やじに完全に封じ込まれて、何度も壇上に立往生した末、七年間の恥と苦痛に健康をそこねている。卒倒してしまった。才腕ある士だったが、まもなく政界を退いている。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
小初は食後の小楊枝こようじを使いながら父親を弥次やじった。自分が人を揶揄やゆすることを好んで人から揶揄されることをきらうのは都会的諷刺家ふうしかの性分で、父親はそれが娘だとぐっとしゃくさわった。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうでないものとの二派に分れて弥次やじを飛ばしながら、大分おだやかでない形勢になっていたところへ、一方の桟敷から誰かが何か云ったのがその親分のしゃくに触ったものだと見える。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
老中水野越前守みずのえちぜんのかみの改革に火の消えたような有様ですが、さすがは物見高い江戸っ子、茶気と弥次やじ気分は、此期このごに及んで衰えた風もなく、落首を貼った高札の前は、押すな押すなの騒ぎ
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と、一彦は砂丘のかげに寝ころがったまま帆村荘六おじさんを弥次やじりました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼らは不意に目の前に現われた二人を弥次やじっていなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
弥次やじ連中はヤイヤイとはやしたてた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ちょっと、いままでの試合しあい目先めさきがかわったので、見物けんぶつはよろこんだ。大きな弥次やじのこえが、高いの上ではりあげている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま開け放しておいたふすまから七つ八つの、いずれも穏かならぬかおがさいぜんから現われて、この無作法ぶさほうな浪士の後援をつとめていたのがいま一斉いっせい弥次やじり出した。
「奇をてらうなっ」と弥次やじったりして、時には、立って講壇へ迫ろうとするような乱暴者があったりした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
米友はぜひなく、その女に背中を流してもらっていると、外の弥次やじ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ケシかけるような弥次やじをとばしたので、卜斎に、ぴしゃりとお出額でこをたたかれて、だまってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
拍手喝采してこの奇妙な小男の、本気になって憤慨するのを弥次やじり立てて楽しもうとすると、米友はかえってそれらを相手にはしないで、欄干に結びつけてあった高札の縄目を解きにかかったから
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かえってこれは飛んだ宋江の迷惑事と察して同情をよせ、逆に閻婆えんばの狂態を弥次やじり仆す有様だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
単に一方が一方に弥次やじり勝って、一方を沈黙させれば、それで勝利の満足の快感に酔うというスポーツ的興味のためにわめいているのではないのですから、内なる二人が沈黙しようとも、すまいとも
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ずべきはずの弥次やじが、四方からワイワイと蛾次郎がじろうをひとりぜめに飛ぶので、さすがに、はずかしいことを知らぬ蛾次郎も、すっかりまいってしまって、三たびめの口上こうじょう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは弥次やじで言ったのではなく、ほんとに感心して
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが、立つやいな魯達の鉄拳てっけんに眼じりを一つ見舞われて「げふっ」と奇妙な叫びをもらした。——ところは状元橋じょうげんきょうの目抜き通り、たちまちまっ黒な見物人の弥次やじ声がまわりをつつむ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)