引立ひきたて)” の例文
種々しゆ/″\と取扱ひ漸々やう/\涙金なみだきんとして金五兩つかは勘當かんだうとこそなりにけれ是に因て袋井の者三人はお芳を引立ひきたてつれ歸る然ば九郎兵衞は仕損しそんぜしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
文「一同静かにしろ、兎も角も御用の馬を引留めました乱暴者はわたくしでござります、お手数てかずながらお引立ひきたての上、その次第を御吟味下さいまし」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また国邑こくゆうにて文武の引立ひきたてといえば、藩士の面々めんめん書籍しょじゃく拝借はいしゃく、馬も鉄砲も拝借なり。借用の品を用いて無月謝の教師にく、これまた大なる便利なり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ある時国府津こうず行の一等車に乗ったおりは純白なショールを深々と豊かにかけていたのが顔を引立ひきたてて見せた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
白猿はくゑん余光よくわう抱一はういつ不白ふはくなどのもとへも立入たちいるやうになり、香茶かうちや活花いけばなまで器用であはせ、つひ此人このひとたちの引立ひきたてにて茶道具屋ちやだうぐやとまでなり、口前くちまへひとつで諸家しよけ可愛かあいがられ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
決して女々めゝしくてはならぬと我とわが心を引立ひきたてるやうにしたが、要するに理想は冷やかにして人情は温かく、自然は冷厳にして親しみ難く人寰じんくわんは懐かしくして巣を作るに適して居る。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
振り返ると、それはもう六十に近い、人品のよい武士で、引立ひきたて烏帽子をかぶって、萌黄と茶との片身替わりの直垂ひたたれを着て、長い太刀をいていた。彼は白い口髯の下から坂東声ばんどうごえで言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
矢庭やにはに二人とも生捕いけどり引立ひきたてしは心地よくこそ見えたりけりよつて二人とも入牢申付られしが吉原にあり手負ておひの平四郎は四日相果あひはてし故檢視けんし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さて、段々と様子をおきゝに成りますと、引立ひきたてられようと致した男女ふたりは品川の和国楼から逃亡した花里と伊之吉でございます。
この公用とは所謂いわゆる公儀こうぎ(幕府のことなり)の御勤おつとめ、江戸藩邸はんていの諸入費、藩債はんさいの利子、国邑こくゆうにては武備ぶび城普請しろぶしん在方ざいかた橋梁きょうりょう堤防ていぼう貧民ひんみんの救済手当、藩士文武の引立ひきたて等、これなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
捻上ねぢあげつひに召捕て奉行所へ引立ひきたてければ大岡殿小兵衞を見られ其方事去る十月二十八日夜兩替町島屋治兵衞方へしのいり三人に手をおはせ金子千兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これまでお引立ひきたてこうむりましたは、実は武田の重左衞門じゅうざえもん様の御恩でござります、そのお家の御二男様が御養子の約束になって居るものを、貴方がいやと仰しゃれば何故なにゆえそむくと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貴方あんたも元は御重役様であった時分には、わし親父おやじ度々たび/\引立ひきたてになったから、貴方を私がうちへ呼んで御馳走をしたり、立派な進物もつかった事がありますから、少しばかりの事を恵んでも
斯うしてくれと云っては依怙えこの沙汰になって、それでは伯父も済まん訳だから、ういう事でわし此処これへ呼び寄せて、お前が馳走をして引立ひきたてを願うと云って、酒などを飲ましてくれちゃ誠に困る
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)