年来としごろ)” の例文
旧字:年來
豊雄、七二ここに安倍あべ大人うしとまうすは、年来としごろ七三まなぶ師にてます。彼所かしこに詣づる便に、傘とりて帰るとて七四推して参りぬ。
年来としごろになりければ平塚の宿に夜叉王やしゃおうといふ傾城けいせいのもとへ通ひて女子一人設けたり寅の年の寅の月の寅の日に生まれければその名を三虎御前とぞ呼ばれける。
深く年来としごろの不孝を悔いて、せめて跡に残った母だけには最う苦労を掛けたくないと思い、父の葬式を済せてから、母を奉じて上京して、東京で一を成した。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
年来としごろ大内住うちずみに、辺鄙いなかの人ははたうるさくまさん、かのおんわたりにては、何の中将、宰相などいうに添いぶし給うらん、今更にくくこそおぼゆれ」などと云ってたわむれかかると
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
然れども流石年来としごろ頼める御仏に離れまゐらせんことも影護うしろめたくて、心と心との争ひに何となすべき道も知らず、幼きより頼みまゐらせたる此地こゝの御仏に七夜参の祈願を籠めしも
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
口惜くちをしとの色はしたたかそのおもてのぼれり。貫一は彼が意見の父と相容あひいれずして、年来としごろ別居せる内情をつまびらかに知れば、めてその喜ぶべきをも、かへつてかくうれひゆゑさとれるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少焦すこじれで、医者はおそろしい顔をしてにらみつけると、あわれがって抱きあげる娘の胸に顔をかくしてすがるさまに、年来としごろ随分ずいぶんと人を手にかけた医者もを折って腕組うでぐみをして、はッという溜息ためいき
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しかし蔦屋も気の毒だな。身上半減は辛かろう。日頃剛愎であるだけにこんな場合には尚こたえよう。それに年来としごろ蔦屋には随分俺も厄介になった。ここで没義道もぎどうに見捨ることも出来ない」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其方大切なればこそお師匠様と追従ついしようもしたれ、えきも無き他人を珍重には非らず、年来としごろ美事に育だて上げて、人にも褒められ我れも誇りし物を、口惜しきぎぬきせられしはの人ゆゑなり
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かくいさぎよきものの、いかなれば愚昧ぐまい六四貪酷どんこうの人にのみつどふべきやうなし。今夜こよひ此のいきどほりを吐きて年来としごろのこころやりをなし侍る事のうれしさよといふ。
御辺ごへんほどに剛なる人いまだ見ず、我に年来としごろ地を争ふ敵あつて、ややもすれば彼がために悩まさる、しかるべくは御辺、我敵を討つてたび候へとねんごろかたらひけれ、秀郷一義もいはず
かの童児わらはかたち秀麗みやびやかなるをふかくでさせたまうて、四〇年来としごろの事どももいつとなく怠りがちに見え給ふ。