差控さしひか)” の例文
(目賀野氏はもはや閣下ではない筈ですが……)と皮肉をいってやりたくなった田鍋課長だったけれど、それは差控さしひかえることにして
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はずかしながらわたくしは一神様かみさまうらみました……ひとのろいもいたしました……何卒どうぞそのころ物語ものがただけ差控さしひかえさせていただきます……。
以て申上まをしあげ奉つる役儀とは申乍ら上へ對し無禮過言の段恐れ入り奉つる是に依て越前差控さしひかへ餘人を以て吉日良辰りやうしんを撰み御親子御對顏の御式を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私も強い断定は差控さしひかえるが、これは近江おうみから、または近江へ、ちかごろ輸入したものでないということはまあ言えそうである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その代りこの品々に対する僕の判断は一切いわない。いえないのじゃない。いうことを差控さしひかえて置くのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なお、第六部はどうするか、ときかれても、それは第五部の場合のこともあり、確約は差控さしひかえたい。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あとは手代の徳次二十五歳、番頭の喜代三の四十八歳など、いずれも神妙に差控さしひかえております。
「はてな……時分が時分だから、大抵はこの宿しゅくで納まるのに、あの侍たちは、まだ東へ了簡りょうけんと見える、イヤに急ぎ足で、あわてているが、ははあ、これもお差控さしひかれんだな……」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、何事も無かつたと答へると、実はうちは昔から有名なだいの化物屋敷、あなた方が住んでおいでの時に、そんな事を申上げてはかえつて悪いと、今日こんにちまで差控さしひかえてりましたと云ふ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「僕はこれから閣下のところへ行って、君のことを話す。君の態度丈けでも、閣下は君の人格を認めてくれるだろう。他の候補者を持ち込むことは僕が責任を持って差控さしひかえて貰う」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
パリス チッバルトの落命らくめいをいみじうなげいてゞあったゆゑ、なみだ宿やどには戀神ヸーナスまぬものと、縁談えんだん差控さしひかへてゐたところ、あまきつなげいてはひめ心元こゝろもとない、ひとりでゐれば洪水こうずゐのやうになみだ
多門おかど僭越せんえつなり、差控さしひかえを命じる)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思ひてなれば差控さしひかへには及ばず越前とても予が家來なり是迄の無禮ぶれいは許すといひ又越前片時へんじも疾く父上に對面の取計とりはからふべしと有ば越前守はおそれ入て有難き上意を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
余り馬鹿馬鹿しい様なことなので、自宅に帰っても、夫人の園子そのこに打明けることを差控さしひかえた。つまらぬことを云い出して、又母を泣かせるでもないと思ったからだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あとは手代の徳次二十五歳、番頭の喜代三の四十八歳など、いづれも神妙に差控さしひかへて居ります。
「私から瀬尾に、いや瀬戸に申しつけて、差控さしひかえさせるのが責任かと存じます」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「心得ました、いかにも夜歩きは差控さしひかえます」
新郎左近倉平と新婦の銀子は、舞台の右手に、大して臆した色もなく差控さしひかえました。
併し、彼がこのままの姿でT市に現れることは、勿論差控さしひかえなければなりません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
申上なば臣たるの道をうしなふのみならず我が身のつみのがれん爲の樣に思召おぼしめしの程恐入り候間差控さしひかへ候へども右樣御尋ねに付やむを得ず有體ありていに申上候はん私し儀三年以前たう主人しゆじんかゝへられ候節じつは中小姓を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
管々くだくだしく写し出すことは差控さしひかえるが、そのかん、例の床の間に安置された妙な木箱の中からと覚しき、嗄声の安来節は、これより下手には歌えないと思われる程まずい節廻しで、切れては続き
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)