屑籠くずかご)” の例文
「待ってくれ、三輪の兄哥、——お寿の家から剃刀を盗み出せる曲者くせものなら、鏡台の抽斗ひきだし屑籠くずかごから抜け毛を持出すのは何でもないぜ」
毎日警視総監あてに何十通となく来るので、私の投書も、ろくろく眼も通されずに屑籠くずかごの中へほうりこまれたのではないかとも思われる。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
クリストフはそれに注意も払わないで、招待状を屑籠くずかごに投げ込んだまま、返事さえ出さなかった。彼女は別に気を悪くしなかった。
しばらく考えたあと、かれはその封筒を、手紙ごとめりめりとき、もみくちゃにし、さらにすたずたに裂いて屑籠くずかごに投げこんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わしは習い覚た冷淡な態度で、そんな手紙に驚きもせず、ごくあたり前のことの様に、平然として読み下し、平然として屑籠くずかごに投げ込んだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私がもし第一の芸術家にでもなりきりうる時節が来たならば、この縷説るせつ鶏肋けいろくにも値せぬものとして屑籠くずかごにでも投じ終わろう。
広津氏に答う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「机の上をなんとかしろよ」と辰弥は云った、「まるで屑籠くずかごをひっくり返したようじゃないか、よくそれで勉強ができるな」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それでぼくが六号活字を受持っている時には、性質たちのよくないのは、たいてい屑籠くずかごへ放り込んだ。この記事もまったくそれだね。反対運動の結果だ
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ジルノルマン氏は身を震わしながらその手紙を取り、それを読み下し、そして四つに引き裂いて屑籠くずかごに投げ込んだ。
色よき返事このようにと心に祝いて土産みやげに京都よりうて来し友染縮緬ゆうぜんちりめんずたずたに引き裂きて屑籠くずかごに投げ込みぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
或人自ら屑屋くずやと名のり「屑籠くずかごの中よりふとたけ里人さとびとの歌論を見つけ出してこれを読むにイヤハヤ御高論……」
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
原稿用紙二枚に走り書きしたる君のお手紙を読み、わば、屑籠くずかごの中のはちすを、確実に感じたからである。
若い料理教師は、煙草のい殻を屑籠くずかごの中に投げ込み立上って来た。じろりと台俎板の上を見亙みわたす。これはいらんという道具を二三品、き出して台俎板の向う側へ黙ってほうり出した。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
水死人は社会的の現象としては、極くありふれた事である。新聞社に居る啓吉はよく、溺死人できしにんに関する通信が、反古ほご同様に一瞥いちべつあたえられると、直ぐ屑籠くずかごに投ぜられるのを知っている。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ナーンだ、それじゃいくら屑籠くずかご背負しょって、世間をぎ歩いても知れねえ訳だ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探偵小説と貼紙をした古屑籠くずかごの蓋を取ってみると、怪奇、冒険、ユーモア、ナンセンス、変態心理といったような読物の妖怪変化が、ウジャウジャと押し合いへし合いながら巣喰っている。
探偵小説の正体 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
司令官は、紙片を、てのひらのうちに握りつぶすとポイと屑籠くずかごの中に、投げ入れた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
我れ筆とるといふ名ある上は、いかで大方のよの人のごと一たび読みされば屑籠くずかごに投げらるゝものはかくまじ、人情浮薄にて、今日喜ばるゝもの明日は捨てらるゝのよといへども、真情に訴へ
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
各新聞の社会面は、玉村家怪事件で埋められ、その外のあらゆる記事は、おしげもなく編輯者の屑籠くずかごに放り込まれてしまった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
机の前には、回転椅子が一つそなえつけてある。その他には、側置卓子サイドテーブルが一つと屑籠くずかごが一つころがっているきり——これがこの室の全調度ちょうどである。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
母は机の下をのぞき込む。西洋流の籃製かごせい屑籠くずかごが、足掛あしかけむこうほのかに見える。母はこごんで手をのばした。紺緞子こんどんすの帯が、窓からさすあかりをまともに受けた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甲斐は読み終ると、机の上の文筺ふばこからはさみを取り、その紙をこまかく寸断したうえで、屑籠くずかごの中へ捨てた。
異常な荘厳さが、巨人の屑籠くずかごをくつがえしたようなその破片の堆積から発していた。それは塵芥ごみの山であり、またシナイの山(訳者注 モーゼがエホバより戒律を受けし所)
私は今度の事件について先生に手紙を書こうかと思って、筆をりかけた。私はそれを十行ばかり書いてめた。書いた所は寸々すんずんに引き裂いて屑籠くずかごへ投げ込んだ。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところで、被害者の家の捜索によって、二階の紙屑籠くずかごから、洋罫紙ようけいしにペンでしたためて四つに折って封筒に入れたまま真ん中から二つに裂いた未亡人から夫にあてた簡単な置き手紙が一通出た。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
主人はこの鄭重ていちょうなる書面を、冷淡に丸めてぽんと屑籠くずかごの中へほうり込んだ。せっかくの針作君の九拝も臥薪甞胆も何の役にも立たなかったのは気の毒である。第三信にかかる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だからアイロニーさ。せっかく本を読むかと思うとすぐ屑籠くずかごのなかへ入れてしまう。学者と云うものは本を吐いて暮している。なんにも自分の滋養にゃならない。とくの行くのは屑籠ばかりだ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小野さんは薄暗いなかを玄関へ出て、台と屑籠くずかごを持ってくる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)