居処いどころ)” の例文
旧字:居處
さあ、これから出かけよう。お次は、三人の白髪しらがの婆さん捜しだ。その婆さん達が、水精ニンフ居処いどころをわれわれに教えてくれるんだからね。
「よしっ……きっとあなたの汚名は遠からずそそいでみせる。だが、相手の武蔵は今、何処にいるのか、その居処いどころはおわかりですか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「聞いてやろうと仰有おっしゃるのですかい、はッはッはッ。……まア、それはいいとして、旦那方。私は犯人の居処いどころを知っていますよ」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つと寄ると、手巾ハンケチを払った手で、柄杓の柄の半ばを取りしめた。その半ばを持ったまま、居処いどころをかえて、小県は、樹の高根に腰を掛けた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌日になって喬生の隣の老人は、喬生が帰ってこないので心配して彼方此方と探してみたが、どうしても居処いどころが判らない。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
居処いどころって奴は案外人間を束縛するもんだ。何処かへ出ていても、飯時になれあ直ぐ家のことを考える。あれだけでも僕みたいな者にゃ一種の重荷だよ。
司馬温公われまつばというのは三方に峯のある石のまん中が水鉢になり居り、風雅であるが居処いどころをきらうものであるから、鳥渡ちょっと据えるところに難しいしろものである。
庭をつくる人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
親が自分にみずから信じて心に決して居るその説を、子の為めに変じて進退するといっては、所謂いわゆる独立心の居処いどころが分らなくなる。親子だと云ても、親は親、子は子だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「もうこうして居処いどころを突き留めた以上は大丈夫である。これから一と思いに踏み込んでやろうか」と思ったが、いやいや長い間の気のもつれに今は精神が疲労しきっている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
たわけた事を云うな、武士たる者が女房を他人ひとに取られて刀の手前此のまゝでは済まされぬから、両人の居処いどころへ踏込み一刀に切って捨て、生首を引提ひっさげて御両親様へ家事不取締の申訳を
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何だか深切そうないお祖父じいさんらしいので、此人に聞いたら、偶然ひょっとポチの居処いどころを知っていて、教えて呉れるかも知れぬと思って、凝然じっ其面そのかおを視ると、先も振向いて私のかおを視て
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
アトから考えると親方の虫の居処いどころがその日に限って日本一悪かったらしいね。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姉様あねさまはすなわち長男の新婦、上とは屋根裏のことであるが、二階にをかき天井板を張ることは、古くからのことではないから、そこを姉様のつね居処いどころと見たことは、新たな趣向だったかと思われる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
提灯も何もり出して、自分でわッと言ってけつけますと、居処いどころが少しずれて、バッタリと土手っ腹の雪をまくらに、帯腰が谿川の石に倒れておいででした。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俗な奴等だ、呑むなら早くのんかえっ仕舞しまえばいと思うのに、中々帰らぬ。家は狭くて居処いどころもない。仕方しかたないから客の呑でるあいだは、私は押入の中に這入はいって寝て居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
居処いどころを聞いてもそのうちに知れると云って云わないものですから、私は老人をますますえらい異人だと思うようになったのです、それから老人は、二日き、三日隔きに
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
村の者もおめえを置いては為にならねえと云う、此の間なんと云った、私は此の村を離れましては何処どこでも鼻撮はなッつまみで居処いどころもございませんから、元の如く此の村に居られる様にして呉れと云うから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
居処いどころは違ったらしいが、おなじ電車から、一歩おくれて、のっしのっしと出たのである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私方に飛込んで助かった事さえありましたが、この物騒な危ない中にも、大童おおわら松倉まつくらはどうやらうやら久しくまぬかれて居て、私はもとより懇意こんいだからその居処いどころしって居れば私の家にも来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
新聞で知ったからやって来たんだ、多分君にもえるだろう、逢えなかったら、明日あすあたり伯爵家へ往って、君の居処いどころを訊いて尋ねて往こうかと思ってたところだ、どうだね、君は相変らず
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それも心細く、その言う処を確めよう、先刻さきに老番頭と語るのをこの隠れ家で聞いたるごとく、自分の居処いどころ安堵あんどせんと欲して、立花は手を伸べて、心覚えの隔ての襖に触れてた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また見れば、小親居処いどころを替えしがなお立てり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)