寒竹かんちく)” の例文
その癖くびのまわりには、白と黒と格子縞こうしじま派手はでなハンケチをまきつけて、むちかと思うような、寒竹かんちくの長い杖をちょいとわきの下へはさんでいる。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
暗いランプに照らされたすすけた台所で寒竹かんちくの皮をいている寒そうな母の姿や、茶の間で糸車を廻わしている白髪の祖母の袖無羽織の姿が浮び
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
肥前鍋島家ひぜんなべしまけの役人、山目付やまめつけ鈴木杢之進すずきもくのしんという色の黒いさむらい、手に寒竹かんちくつえをもち、日当たりのいい灌木かんぼくの傾斜を、ノソリ、ガサリ、と歩いている。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みな寒竹かんちくでございます、はい、おしなよろしうございます、五圓六十錢ごゑんろくじつせんねがひたうぞんじます。兩人りやうにんかほ見合みあはせて思入おもひいれあり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふきみに来たおばあさんは、寒竹かんちくやぶの中に、小犬を埋めたしるしの石を見て呆然ぼうぜんとしてしまったのだった。
彼はおおい肝癪かんしゃくさわった様子で、寒竹かんちくをそいだような耳をしきりとぴく付かせてあららかに立ち去った。吾輩が車屋の黒と知己ちきになったのはこれからである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
云いすてると老人は腰を延ばし、突いていた寒竹かんちくの鞭のような杖を、振るようにして歩み去った。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことにわずかばかりの石燈籠に寒竹かんちくをあしらったり、多摩川石を敷石のまわりに美しく敷き詰めたり、金燈籠かなどうろうからちらつく灯は、毎夜の打水にすずしく浮んでいるのを眺めるごとに
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かれは、ひとごとをしながら、注意深ちゅういぶかく、ほそたけ小刀こがたなあなをあけていたのです。しかし、若竹わかたけやわらかくて、うまくおもうようにいかなかったのです。にわのすみに、寒竹かんちくえていました。
へちまの水 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一匹の犬が豊吉の立っているすぐそばの、寒竹かんちくの生垣の間から突然現われて豊吉を見て胡散うさんそうに耳を立てたが、たちまち垣の内で口笛が一声二声高く響くや犬はまた駆け込んでしまった。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
寒竹かんちくが植わって、今は全く井戸の形も影もないが、人の噂によると、昔、ここは神谷なにがしというお旗本の下屋敷で、そのそれがしの弟君というのが狂気乱心のためにここへ幽閉されていたところ
渡廊下の前には寒竹かんちくのような小さな竹で編んだ眼隠めかくしがしてあった。
料理番と婢の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
淋しい田舎の古い家の台所の板間で、袖無を着て寒竹かんちくの皮をむいているかと思うと、その次には遠い西国のある学校の前の菓子屋の二階で、同郷の学友と人生を論じている。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
バサッ——と窓際まどぎわ青桐あおぎりが揺すれ、人の駈け出すような寒竹かんちくのそよぎがした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その横に年の頃は十七八で君とか僕とか生意気な事をべらべら喋舌しゃべってるのはこの近所の書生だろう。そのまた次に妙な背中せなかが見える。尻の中から寒竹かんちくを押し込んだように背骨せぼねの節が歴々ありありと出ている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正雄まさおは、にわりて、寒竹かんちくろうとしたのです。
へちまの水 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その一つは寒竹かんちくたけのこである。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)