嬰児みどりご)” の例文
旧字:嬰兒
それぞれにことなる光をつつむわれらの宝玉よ。うたがいもなく、すべての嬰児みどりごが宝玉である。母性の上に与えられた大いなる祝福よ。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
「この美しく彩色いろどつた家はいつたい誰の家ぢやの?」と猊下は、戸口の傍に嬰児みどりごを抱いて佇んでゐた美しい女に訊ねられた。
よく「嬰児みどりごごとかれ」などと言いますが、「如かれ」というところに価値ねうちがあります。もし「嬰児たれ」と言ったとしたら、その言葉はゼロです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しずくばかりの音もせず——獅子はひとえに嬰児みどりごになった、白光びゃくこうかしらで、緑波りょくはは胸をいだいた。何らの寵児ちょうじぞ、天地あめつちの大きなたらい産湯うぶゆを浴びるよ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祖先再生までの間これを嬰児みどりご同様に乳育するに及んだのだろうとあるを、予実例を挙げて、蛇が乳を嗜むもの多きより
それ故素直であり無垢むくでありたい。多くの聖者たちが嬰児みどりごを讃えるのは、一理も二理もある。明禅みょうぜん法印の常の仰せに、「赤子念仏がよきなり」と。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして浅草見附の橋袂はしたもとまでくると、彼方から、まだうら若い女が、生後幾月も経たない嬰児みどりごを負うて、歩いてくる。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さなきだにやみ疲れし上に、嬰児みどりごを産み落せし事なれば、今まで張りつめし気の、一時にゆるみ出でて、重き枕いよいよ上らず、明日あすをも知れぬ命となりしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
といって、二人はたあいもなく、一人の嬰児みどりごを可愛がっていると、次の間で
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はニコラ・プートランの兄弟であって、このニコラ・プートランは、一七八五年に嬰児みどりごの墓地と言われていた墓地の最後の墓掘り人であった。その年にこの墓地は廃せられてしまったのである。
そがうへにひとみひたる嬰児みどりごぞ戯れあそぶ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちからなき、嬰児みどりごごときかひなして
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
円髷まるまげにこそ結ったが、羽織も着ないで、女のらしい嬰児みどりごいだいて、写真屋の椅子にかけたかたちは、寸分の違いもない。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの無心な嬰児みどりごの心に、一物をも有たざる心に、知を誇らざる者に、言葉を慎しむ者に、清貧を悦ぶ者たちの中に、神が宿るとは如何に不可思議な真理であろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
生まれたばかりの嬰児みどりごは、乳を上手に吸うことを知らない、またいつ乳をのむべきかを知らない。はじめての母親も、まだ赤ん坊に乳をのませることが下手へたである。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
与八はその大きな膝の上に郁太郎を据え、お松は後生大事に嬰児みどりごを抱いて
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むろうち暑く悒鬱いぶせく、またさらに嬰児みどりご笑ふ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蒸々むしむしと悪気の籠った暑さは、そこらの田舎屋を圧するようで、空気は大磐石に化したるごとく、嬰児みどりご泣音なくねも沈み、鶏のさえ羽叩くにものうげで、庇間ひあわいにかけた階子はしごに留まって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あはれ、また、嬰児みどりご笑ふ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかも上品に衣紋えもん正しく、黒八丈くろはちの襟を合わせて、色の浅黒い、鼻筋の通った、目に恐ろしく威のある、品のある、眉の秀でた、ただその口許くちもとはお妙にて、嬰児みどりごなつくべく無量の愛の含まるる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苫家とまや伏家ふせやともしびの影も漏れないはさこそ、朝々の煙も細くかの柳を手向けられた墓のごとき屋根の下には、子なき親、夫なき妻、乳のない嬰児みどりご盲目めくらおうな、継母、寄合身上よりあいしんしょうで女ばかりで暮すなど
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何故なぜ今時分くんだね、」と人にものを謂うような、されば宵の一声にお夏がいそがわしく立ったのは、あたかもかしつけた嬰児みどりごが、求めて泣出すのに、嫁がその乳房をもたらすがごとき趣であった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)