嬋娟せんけん)” の例文
嬋娟せんけんたる花のかんばせ、耳の穴をくじりて一笑すれば天井から鼠が落ち、びんのほつれを掻き立ててまくらのとがをうらめば二階から人が落ちる。
食えば飽満の美味、飲めば強烈な薫酒くんしゅ、酔えば耳に猥歌甘楽わいかかんがくむれば花鳥また嬋娟せんけんの美女、——玄徳はかくて過ぎてゆく月日をわすれた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば美しい手弱女たおやめで、髪豊に頸足白く、嬋娟せんけんたる姿、﨟たける容貌、分けても大きく清らかの眼は、無限の愁いを含んでいて見る人の心を悩殺する。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
春枝夫人はるえふじん嬋娟せんけんたる姿すがたたとへば電雷でんらい風雨ふううそら櫻花わうくわ一瓣いちべんのひら/\とふがごとく、一兵いつぺいとききづゝたをれたるを介抱かいほうせんとて、やさしくいだげたる彼女かのぢよゆきかひなには
お前の話を黙って聞いていると、まるで狐狸こりたぐいが一変して嬋娟せんけんたる美女にけるのと同じように聞える。まさかお前は、金博士から妖術ようじゅつを教わってきたのではあるまい
荘厳というべきか窈窕ようちょうというか、嬋娟せんけんというべきか夢幻というか! 亡国と莫迦ばかにし古代文明国とあざけり、物の数にも入れていなかった印度という六千年の伝統を持つ国に対して
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そのおれば嬋娟せんけんたる美姫を擁して巍々ぎぎたる楼閣に住し、出ずれば肥馬にまたがり、軽車にし、隷従雲のごときは全国人民をして風にくしけずり、雨に浴し、父子兄弟妻子をしてあいともに離散し
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
にがりに苦りて言葉なし。アアこの神経というものはおそろしきものなり。折にふれては鬼神妖怪ようかいの当りにおそいきたるかとみれば。いつしか嬋娟せんけんたるたおやめのかたわらに立つかと思うなど。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
而シテ鴨東脂粉ノ光彩目ヲ奪ヒ嬋娟せんけん觀ル可キ者亦嵐光峰影ノ奇能ク之ガ助ヲ爲ス者ニ非ズ邪。然レバ則妓輩皆山靈ノ餘澤ヲ頼ンデ衣食スト謂フモ亦不可ナル無シ。余ハ東人也。西土ヲ喜バザル者。
十年振:一名京都紀行 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
ものういつかれのかげを、嬋娟せんけんたる容姿のどこかに見せながら。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
嬋娟せんけんたる竜女が人を魅殺した話多きも尤もだ、竜宮に財多しというが転じて海に竜王住む故大海に無量の宝ありと『施設論』など仏書に多く見ゆ。
嬋娟せんけんにして男まさりな呉妹君ごまいくんといわれ、その窈窕ようちょうたる武技も有名な夫人であったが、国外遠く嫁いで、母の危篤と聞いては、やはり弱い女に過ぎなかった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『おや、もうお片附かたづきになりましたの。』といつて嬋娟せんけんたる姿すがたいそむかへた。
ビシニアあたりの生れもあり、嬋娟せんけんたる白人の美女を奴隷として、これに食事や入浴の世話をさせたり、外衣トーガの折り目を付けさせたり、少し名のある貴族ならば、銘々三百人や四百人くらいの奴隷は
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
前は嬋娟せんけんたる美女と見ゆれど、後は凄愴せいそうたる骸骨で両肩なし、たまたま人に逢わば乞いてその家に伴れ行き
夫人は、嬋娟せんけんたる美女であった。客を再拝して、楚々そそと、良人のかたわらに戻った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嬋娟せんけん水を滴らんばかりの美女であった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
駝象の大行列中に雄猴をつないで輿こしに載せ、頭に冠を戴かせ、輿側に人ありてこれをあおぎ、炬火きょか晶燈見る人の眼をくらませ、花火を掲げ、嬋娟せんけんたる妓女インドにありたけの音曲を尽し、舞踊、楽歌、放飲
三斎の屋敷の花苑はなぞのには、四季折々の百花が嬋娟せんけんと乱れ咲いた。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嬋娟せんけんたる牡丹ぼたんの大輪が、とたんに花瓶の口にゆらゆら咲いた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)