好餌こうじ)” の例文
彼らの本能的な嗅覚きゅうかくは、常に好餌こうじのある場所をぎ当てる。好餌を発見すると、得たりとばかりごっそり移動し、食欲を満足させる。
鰻の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
好餌こうじ——余の胸に、餓えた狼が羊を見るような、衝動がこみあがってきた。盲弾めくらだまを放ったにしろ、たしか十隻はうち沈めることができる。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
(二)あらゆる好餌こうじを用意して、某国大使館の始末機関の借用方しゃくようかたに成功し、その上にて該機関がいきかんを用いて金博士を始末すること。
「では、何と好餌こうじをもって、条件としたか知らぬが、おぬしの書状に対して、蜂須賀村の野武士の頭目は、うんと承諾の旨を答えて来たのか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは無三四に限ったことではない、ワナを上手にはずす動物は、どんな好餌こうじがあっても、そうガツガツと、いちずには近寄ることをしないものです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こういう風に実行も出来ぬ地方問題を好餌こうじとして、一方には無邪気なる選挙区民をたぶらかし、他方では公共機関を誘惑して、これをその味方につけんとする。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
就中なかんずく、就産資金の三十両が好餌こうじであった。土地にあぶれ、職に窮した庶民がこの大盤ふるまいを聞きつけて集まって来たのである。彼らは指定された民家街に草屋を営んだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
民衆はその好餌こうじに引き寄せられ、自分等の真の要求とは全く関係もない要求に屈服し、過去に起った或る同じような立派な事件に、自分達の無価値な行動をいて結び付けて
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もしそうなれば、大名取潰しの機会をねらっている幕府の好餌こうじとなるに違いない。僅か二代にして宇和島の家名を喪ったら、父祖の霊にどう云ってびられるか、そこまで心をいためていたのであった。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
復興どころか、かえって、際物師の好餌こうじと成って徒労に終るのみだ。近時、書道の隆盛にあずかって、事に従う者以て如何となす。(昭和十年)
小安しょうあんをむさぼって守るを国是こくぜとなさんか、たちまち、魏呉両国は慾望を相結んで、この好餌こうじを二分してわかたんと攻めかかって来るや必せりである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長良川博士は、最大の名誉などの好餌こうじにつられることなく、おしよせた会員たちの暴挙ぼうきょをいましめるところがあった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その他種々なる地方的利益を好餌こうじとして選挙区民を釣る。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
家康が、かたいからを出たので、勝入父子の討死こそ、家康を好餌こうじになったぞ——と思ったからであった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
く笑い、能く談じ、金のないのも、ひとの笑うのも一切苦にならぬ。だから健康なのだとひとはいう。己の欲する好餌こうじばかりの生活は、これこの通りということになろうか。
美食七十年の体験 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
さまざまの好餌こうじを、市民の中にひけらかし、善良な人達までが、羊の皮を被った狼にだまされて、襲撃団の中に参加したのは、物事が間違う頃合いにも程があると、後になってなげかれたところだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「旺勢は避けて、弱体を衝く。——当然な兵法だな。——だがまた、装備を誇る驕慢な大軍は、軽捷けいしょう寡兵かへいをもって奇襲するに絶好な好餌こうじでもあるが?」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つづいて、名乗りかける者、取囲む者、ことごとく顔良の好餌こうじとなるばかりである。さすがの曹操も胆を冷やし
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乱を見れば忽ち蜂起ほうきして、好餌こうじあさりまわる土匪どひの徒や野武士の集団は、故信長の遺業がここまでになっていても、まだまだ決して根絶されてはいない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山野へ避難した女も、深窓の諸家の女も、彼らの目には、捕るにまかせた好餌こうじと狙われているらしく、聞くにたえないみだらも、昨今、めずらしくはありませぬ
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などとあらゆる恫喝どうかつ好餌こうじたずさえて、浅井、朝倉、武田、北畠などの使者が、半兵衛を自国へ引き入れにやって来たが、半兵衛はそのどれへも、同じ笑いをもって
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
潰走かいそう乱軍のなかに、武田方の好餌こうじとなって捕捉ほそくされたり、もうひとつの原因は、丹波島の下流にあたる犀川の深い流域へ、向う見ずに駆けこんで、溺れ流されたり
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大小の顔役が、それぞれ縄張なわばりを持ち、乾分こぶんを養い、旅烏の客をつかまえて、好餌こうじとしているが、その中で、管営かんえいの若殿金眼彪きんがんひょう施恩しおんも、一ト縄張の株を持っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むすび、弟の孔明もつねに尊敬しておかないほどな将軍である。どんな好餌こうじや甘言をもって説いたところで、あの人が節を変えて呉へ降るなどということはありえない
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……彼にいかなる不平があり、またいかなる好餌こうじをもって誘われたか知らぬが、要するに、毛利と本願寺のたてに使われ、楯の役目をわれば、可惜あたら、自滅のほかない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といってくれたが、兵たちにとっては、この好餌こうじを見て、ただ親切だけをつくしてはいられない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さても、池田勝入入道信輝にゅうどうのぶてると、むこ、森武蔵守長可ながよしの二隊こそ、いまは、家康の好餌こうじであった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近江三箇荘を与えようという好餌こうじのもとに、協力を求めたのである。だが叡山はその前日、直義ただよし墨付すみつきで、すでに近江三箇荘をもらっていた。当然、あいまいな態度でしかない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という好餌こうじをもって、呂布を抱きこみにかかったのである。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、はやその好餌こうじに目色をかがやかした。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
好餌こうじ、ござんなれ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)