大門おおもん)” の例文
不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ三月みつきさびしさはのがれず、大門おおもんから水道尻すいどうじりまで、茶屋の二階に甲走かんばしッた声のさざめきも聞えぬ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その晩のことでありました、吉原の大門おおもんを出た宇津木兵馬は、すれ違いに妙な人と行逢って、それを見過ごすことができなかったのは。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
利口な人ならば、ここらでもう見切りをつけて、二度と大門おおもんをくぐらない筈であると、八橋は彼の未来を占うように言った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と無理やりに履物をひッたくって表へ飛び出し、無闇に駈出して大門おおもんを出る。跡から続いて正孝と長次が追いかけ
見返柳みかえりやなぎの立っていた大門おおもん外の堤に佇立たたずんで、東のかたを見渡すと、地方今戸町じかたいまどまちの低い人家の屋根を越して、田圃のかなたに小塚こづかぱらの女郎屋の裏手が見え
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ために寄った方が水道尻すいどうじり、日本堤から折れて這入はいると大門おおもん、大江戸のこれは北方に当る故北国ほっこくといった。
三人共小倉袴に紺足袋で、朴歯ほおばの下駄をがらつかせて出る。上野の山から根岸を抜けて、通新町を右へ折れる。お歯黒どぶの側を大門おおもんに廻る。吉原を縦横に濶歩かっぽする。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
春よしは人形町通りを梅園うめぞの横丁へ入ったところで、ちょうど大門おおもん通りへぬける路地のなかにあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
現今いまは、人形町通りに電車が通り、道幅が広がっているが、人形町通りは大門おおもん通りと平行して竪に二筋ならんでいたのだが、大門通りの気風と、人形町とはまるで違っていた。
大門おおもんを出てから、ある安料埋店で朝酒を飲み、それから向島むこうじまの百花園へ行こうということに定まったが、僕は千束町へ寄って見たくなったので、まず、その方へまわることにした。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
あの車夫があの老女を扶けながらちょうど大門おおもんの方へ向って歩いている。
些細な事件 (新字新仮名) / 魯迅(著)
するとおてら大門おおもんをまたぐひょうしに、若者わかものはひょいとけつまずいて、まえへのめりました。そしてころんだはずみに、ると、みちの上にちていた一ぽんのわらを、おもわず手につかんでいました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ちょうど、大門おおもん高札場前こうさつばまえ
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくる朝、政吉は雨にぬれて吉原を出るところを大門おおもん口で捕えられた。前にも云った馬道の庄太が彼を召捕ったのである。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大門おおもんを入って、道筋どうすじを左に曲ろうとすると、ふいと向うからやって来て、おたがいにかおを見合せたのは、昨夜、一ぜん飯屋で杯を取交とりかわした小間物屋です。
こんな口説くぜつよろしくあって、種員は思いも掛けぬ馬鹿に幸福しあわせな一夜を過し翌朝あくるあさぼんやり大門おおもんを出たのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大門おおもん通りといった町は、黒い蔵ばかり、田舎とちがって白壁の土蔵は、荷蔵くらいなもので、それも腰の方は黒くぬってあって、店蔵も住居の蔵も、黒くぴかぴか光った壁であった。
其のうち若者わかいもの多勢おおぜいにて清左衞門を取押えて大門おおもんの番所へ引く事に成りました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
次郎左衛門を乗せた駕籠が大門おおもんを出ると、枝ばかりの見返り柳が師走の朝風に痩せた影をふるわせていた。垂れをおろしている駕籠の中も寒かった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あなた様は吉原へおいでになったことがございますか、大門おおもんをお潜りになったことがございますか」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで、ちっとばかり古い事を並べて見ると、本編最初からお馴染なじみになっている大門通りは、くるわの大門の通りなのだから大門おおもんとよんでください。芝にも大門があるがあれは大門だいもんである。
吉原土手から大門おおもんを這入りまして、京町一丁目の角海老楼かどえびろうの前まで来たが、馴染のうちでも少し極りが悪く、敷居が高いからおびえながら這入って参り、窮屈そうに固まって隅の方へ坐ってお辞義をして
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
駕籠はふたたび大門おおもんをくぐって茶屋の女房を面食らわした。茶屋では直ぐに大菱屋へ綾衣を仕舞しまいにやった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もし、旦那、吉原までおともを致しやしょう、大門おおもんまで御奮発なせえまし、戻りでございやすよ」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其処そこには、弘法大師こうぼうだいし円光大師えんこうだいし日蓮祖師にちれんそし鬼子母神きしぼじんとの四つのお堂があり、憲兵屋敷は牢屋敷裏門をそのまま用いていた。小伝馬町三丁目、通油町と通旅籠町の間をつらぬいてたてに大門おおもん通がある。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
箕輪から京間きょうまで四百けんの土手を南へのぼれば、江戸じゅうの人を吸い込む吉原の大門おおもんが口をあいている。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
米友は頬冠ほおかぶりをして、例の梯子くずしを背中に背負しょって、跛足びっこを引き引き大門おおもんを潜りました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大門おおもんのなかには柳と桜がえてあって、その青い影は家々のあかるい灯のまえにゆるくなびいていた。その白い花は家々の騒がしい絃歌に追い立てられるようにあわただしく散っていた。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「旦那、いかがです、大門おおもんまでおともを致しやしょう、二朱やって下さい、二朱」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その晩、草市を見物に出た遊女も大勢おおぜいあった。大門おおもんをくぐった侍も大勢あった。その大勢と大勢とのなかで、外記と自分とが偶然に行きちがって、偶然に自分の袖がこの刀のつかからんだ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ついに大門おおもんの前まで来た。