大蒜にんにく)” の例文
万豪和尚より習ひ覚えしといふ奈美女の優れたる竹抱、牛血、大蒜にんにく、人参、獣肝、茯苓草ぶくりやうさうのたぐひを浴びるが如く用ふれども遂に及ばず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの大蒜にんにくの根や、茴香の蕾を抓み散らして、精一杯に苦んで、藻掻いて血を吐いて、而して笑つて真蒼に腐つて了ひ度い——とも思つた。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お芳はお松を見なかったものの、少くともお鈴の顔色に妙なけはいを感じたと見え、「これは、あの、大蒜にんにくでございます」
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その、大蒜にんにく屋敷の雁股かりまたへ掛かります、この街道かいどう棒鼻ぼうばなつじに、巌穴いわあなのような窪地くぼちに引っ込んで、石松という猟師が、小児がきだくさんでもっております。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云う房次郎夫人の質問から、烏賊をトマトで煮て少量の大蒜にんにくで風味を添える仏蘭西料理の説明がしばらくつづいた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大蒜にんにくの入った小さな袋が帆布の間に挾まっていた。兵隊達は血みどろになってひとかけらの大蒜を奪いあった。
海難記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
自分のこの大蒜にんにくの場合について考えてみると、あるいはこの些細な副食物が、一方では自分等の家庭と
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
犢の肉や臓物、豚の肉、まるのままの鶏、湖水のいろいろな魚や蝦、葱や大蒜にんにくや茴香、栗や筍、それからまた、百年もたったという老酒の甕も取出されていました。
〔辛かるべし〕agrume は昔葱、大蒜にんにく等の如く舌を刺すに似たる味あるものをいへり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ある者は、戦線で、弾丸にあたってたおれてしまった。ある者は、びっこになり、片目になり、腕をなくして追っぱらわれた。ある者は、支那人の大蒜にんにくの匂いに愛想をつかして逃亡した。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
またあのざらざらした鮫肌さめはだや、くさい大蒜にんにくの匂いのした舌や、べったり髪にくっついた油や、長い爪や、咬みつく尖った乱杭歯らんぐいばやが——と思うと、もう彼女はあきらめきった病人のように
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そこには貨幣だの胡椒こしょうだの大蒜にんにくだのがはいっていた。
大蒜にんにく——きっと、また石竹せきちくのやつだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
この頃は病気やまいと張合ういさみもないで、どうなとしてくれ、もう投身なげみじゃ。人に由っては大蒜にんにくえ、と云うだがな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大蒜にんにくの入った小さな袋が帆布の間に挾っていた。兵隊たちは血みどろになってひとかけの大蒜にんにくを奪い合った。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「だがほんとうにれ合った仲なら、大蒜にんにくの匂いぐらい何でもない筈だがな。それでなけりゃあうそですよ」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
支那人のうちばかりだからにら大蒜にんにく臭気においがする分にはチットモ不思議はない筈であるが
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兵士は、大蒜にんにくと、脂肪と、変な煙草のような匂いのする工人の周囲に輪を描いた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
大蒜にんにくの花、銅版画は司馬江漢しばこうかんの水道橋の新緑、その紅と金、小林清親こばやしきよちかの横浜何番館、そうして私たちの「パンの会」、永代の一銭蒸汽と吊橋、小伝馬町こでんまちょうは江戸の白い並倉ならびぐらと新しい東京の西洋料理店レストオラン
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
……菜大根、茄子なすびなどは料理に醤油したじついえ、だという倹約で、ねぶかにら大蒜にんにく辣薤らっきょうと申す五うんたぐいを、空地あきち中に、植え込んで、塩で弁ずるのでございまして。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血腸詰プウダンやら、河沙魚グウジョンの空揚げやら、胎貝ムウル大蒜にんにくの塩汁、豚の軟骨のゼラチン、こうしの脳味噌をでたやつ
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
庭では別段気がつくほどではなかったのだが、締め切ってあった洋室の中には一と晩じゅうよどんでいた葉巻の匂いと大蒜にんにくの匂いとが、むっと鼻を刺すばかりに交っていた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
幹太郎は、支那人の、脂肪と大蒜にんにくの臭気にもまれながら人々を押し割った。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「茄子、南瓜かぼちゃ、隠元、大蒜にんにく、うちの畑はいいよ、そりゃ。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
人だかり大蒜にんにくのはげしきはなか分きかねつ旅に来てあり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
げにげにあるものは大蒜にんにくはたけ狂人きやうじんの笑へるごとく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
昼捕りし鯉の洗ひの水紅は大蒜にんにく磨りて浅夜あさよぶべし
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
五月ついたち、大蒜にんにく
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)