大籬おおまがき)” の例文
「驚くのも無理は無い——。大籬おおまがきのお職を張って居る玉だって、此の節はそんな値は無いさ、併しあの女はそれだけの値打があるよ」
大籬おおまがき小籬、朱塗の見世格子に煌々とネオン照り映え、門松の枝吹き鳴らすモダン風、駄々羅太鼓の間拍子もなんとなくジャズめく当代の喜見城リュウ・ド・プレジール
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
婢はいとけなくして吉原の大籬おおまがきつかえ、忠実を以て称せられていた。その千住の親里に帰ったのは、年二十をえたのちである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大柄な女はいかほど容貌きりょうがよく押し出しが立派でも兼太郎はさして見返りもせず、ああいう女は昔なら大籬おおまがき華魁おいらんにするといい、当世なら女優向きだ
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……ある大籬おおまがきの寮が根岸にある、その畠に造ったのを掘たてだというはしりの新芋。これだけはお才が自慢で、すじ、蒟蒻こんにゃくなどと煮込みのおでんをどんぶりへ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の遊女の所へ尋ねてきはしないかと、吉原へ参って格子先を覗いて歩くと、辨天屋祐三郎ゆうざぶろうという江戸町一丁目の大籬おおまがきの次位大町だいまち小見世こみせというべき店で
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「何しろ、先方様は大籬おおまがきへ、茶屋からお上りになったんでございますからね、こちらもそのつもりで二十両や三十両がところは用意して参りませんと……」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大籬おおまがき太夫衆たゆうしゅうがもらうような、こんな御祝儀を見せられちゃ、いやだともいえまいじゃないか。だがいったい、見ず知らずのお前さんの、頼みというのは何さ。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「昔の大籬おおまがきの女郎って奴、おおよそご大相な見得と見識とを、持ってもいたが見せつけもしたものさ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
吉原大籬おおまがきの遊女もボンネットをかぶり、十八世紀風のひだの多い洋服を着て椅子にりかかって張店はりみせをしたのを、見に連れてゆかれたのを、私はかすかに覚えている。
下谷も入谷田圃に近い、もとなんとかいう吉原の大籬おおまがきの寮の跡だという、冷たくだだッ広いこのうちは、明治三十八年の東京市中とは思われないほど、ものしずかだった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
しかも、その源氏名の濃紫こいむらさきと云う名を、万延頃の細見で繰ってみれば判る通りで、当時唯一の大籬おおまがきに筆頭を張りおおせただけ、なまじなまなかの全盛ではなかったらしい。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何事かを宋江から耳打ちされて、すじ向いの大籬おおまがきの門へ、すうっと、入って行ったものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大籬おおまがきに育てられた彼女は、浮世絵に描かれた遊女のようにしだらのない立て膝をしてはいなかったが、疲れたからだを少しくはすにして、桐の手あぶりの柔かいふちへ白い指さきをさかむきに突いたまま
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木で彫った仏様にはちげえねエが、象の上に乗っかっていなきゃ、そのまま大籬おおまがきから突き出せそうな代物しろものですぜ。
知らせて来てくれたものの話には、神尾殿は茶屋から上って大籬おおまがきとやらに遊んでいるそうな。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほどお前は田舎の人、噂を聞かぬはもっともだが、近来江戸へ女装をしたそれも大籬おおまがきの花魁姿、夜な夜な出ては追剥おいおどし、武器と云えば銀のかんざし手裏剣にもなれば匕首あいくちにもなる。
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今紫は大籬おおまがき花魁おいらん、男舞で名をあげ、吉原太夫よしわらだゆうの最後の嬌名きょうめいをとどめたが、娼妓しょうぎ解放令と同時廃業し、その後、薬師錦織にしごおり某と同棲どうせいし、壮士芝居勃興ぼっこうのころ女優となったりして
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しばらくは、おんなをよんで、いわゆるつうな“きれいごと遊び”に時をすごしていたが、そのうち斜向いの、わけて一軒すばらしい大籬おおまがき揚屋あげやに、チラと見えた歌舞かぶ菩薩ぼさつさながらの人影に
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洲崎すさきくるわへ入った時、ここの大籬おおまがきの女を俺が、と手折たおった枝に根をはやす、返咲かえりざきの色を見せる気にもなったし、意気な男で暮したさに、引手茶屋が一軒、不景気で分散して、売物に出たのがあったのを
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何となく「大籬おおまがき」というゆったりとしたものが感じられる。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
秀造さんは吉原の大籬おおまがき金瓶大黒きんぺいだいこくの恋婿で、吉原に文明開化をもちこんで、幾分でも吉原を明るくしたかわりに養家はつぶしてしまった人。異之助さんは本邦最初の、外国火災保険詐欺をやった男。
……それじゃア、俺ら町人なんかは、どんな女郎買っていいんだい。……こういうお触れ書きを出した奴や、蔵前の札差しなんて奴は、銀で本田髷を巻き立ててよ、吉原の大籬おおまがき花魁おいらんを買ってよ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)