土龍もぐら)” の例文
新字:土竜
「松明仕掛けの睡り薬で参らすんだ。その作り方は、土龍もぐら井守いもり蝮蛇まむしの血に、天鼠、百足むかで、白檀、丁香、水銀郎の細末をまぜて……」
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「オオ」というみの直しの安蔵、道具を投げて無我夢中に、手をもって土をかき分けます。その努力やあたかも土龍もぐらのように必死でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慎作は、坑道を見失った土龍もぐらの様な父が、最後に頼ろうとする飼鳥を、理性一点ばりで拒否する自分が非常に冷酷なものに思えてならなかった。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
そしてそこで彼等は土龍もぐらのやうな遊びを始めた。そこは物置の中とは比べものにならない位に涼しかつた。
(旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
地藏樣の臺座の下は、土龍もぐらの穴のやうに深々と掘れてあり、この中を搜つたはずみで、臺座のゆるんだ地藏樣が、下に轉がり落ちたと思へないことはありません。
全く強制的に彼は朝起きるとから日が落ちるまで、土龍もぐらのように働かなければならなかったのである。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
嗚呼ああ、後年の梟雄きょうゆう武蔵守輝勝、かの肖像畫に見るところの英姿颯爽さっそうたる「武州公」が、今や桔梗の方の厠の真下にある坑道のやみ土龍もぐらの如くうずくまっている様子は
自由を求め、ひろびろとした世界に出て、龍となって昇天する筈であった。それなのに、今は、北九州の一角、若松という不自由の天地に、土龍もぐらのように跼蹐きょくせきしている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
庭上で土龍もぐらを捉えてこれを殺した時、やむを得ぬとはいえ、慚愧の念に堪えないと記している。
ソレあの山の八合目にかけた森の中に土龍もぐらの形に似た枯草の野があるだらう、あれはこの麓の村から牛馬の飼料を刈りにゆく草場で、その形からこの邊ではムグラツトと呼んでゐる
今村は、日光をおそれる土龍もぐらのように、明るい部屋へ出るのが気まりがわるかった。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
下女げぢよしまいろ判然はつきりうつらない夜具やぐなかに、土龍もぐらごとかたまつててゐた。今度こんど左側ひだりがはの六でふのぞいた。がらんとしてさみしいなかに、れい鏡臺きやうだいいてあつて、かゞみおもて夜中よなかだけすごこたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
警官の土龍もぐらのような眼は、突き出る首とともに彼の後姿を追うていた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
霜はふる、土龍もぐらの死にし小徑みち
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
土龍もぐらの毛のさみしい銀鼠
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
しかし、加賀見忍剣かがみにんけんの身のまわりだけは、常闇とこやみだった。かれは、とんでもない奈落ならくのそこに落ちて、土龍もぐらのようにもがいていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎も角飛鳥山の一角を禿げチヨロにし、三圍樣みめぐり樣の境内を土龍もぐらの古戰場のやうにした上、今の神田宮本町、その頃の櫻の馬場を、大根島のやうに掘り荒したのも無理のないことです。
土龍もぐらのみち
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
平治の乱から二十年、近衛河原このえがわらのこの邸に、土龍もぐらのように住んで来た。——頼政はそう思う。土龍のようなと吾ながら思う。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生憎あいにく、そんなでつかい隙間もないし、床下の土には、土龍もぐらの這つた跡もありません。
たずねたが、手を引くやいな、下の頼春は、別れの辞儀を見せたのみで、何もいわず、土龍もぐらのように姿を消した。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「飛んでもない、穴を掘つて縛られた日には、日本中の土龍もぐらは暮しが立たねえ」
赤い秋草の根には、土龍もぐらの掘りちらした土が乾き、民家の軒に干してある洗濯物のしずくがぽとぽと落ちていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとつの土龍もぐら戦術ともいえるものだった。これは前例のない戦法でもなく、城壁を高く持つこと極端なほど堅固な中国では古くから行われている法である。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは土龍もぐらのように、地の底を掘りぬいて、地下道をすすみ敵前へ攻め出るという戦法である。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、蜀軍はわざと虚陣の油断を見せたり、弱兵を前に立てたり、日々工夫して、釣りだしを策してみたが、呉は土龍もぐらのように、依然として陣地から一歩も出てこなかった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かほどな堅塁けんるいが、さいごのねばりになって、こう急に敗れた原因は何かというと、寄手のしゃ二無二な土龍もぐら戦法が犠牲を無視して城中へ入ったのが、彼の致命を制したこと勿論だが、何よりは
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土龍もぐらのように首をっこみ、んであるワラ山へ無我夢中むがむちゅうでもぐりこむ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の足元から荷行李にごりの積んである蔭へ土龍もぐら抜けに隠れている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土龍もぐらのように、鉄門の蔭に、かがまっていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵の土龍もぐら作戦がだいぶ進んでいるのらしい。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土龍もぐらのように、でようとしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土龍もぐらどもめ!」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)