国貞くにさだ)” の例文
さりとは折角精魂めて再刻した国貞くにさだや英泉の美しい複製版画を、自ら墨滴で汚してしまつてゐるものとじつに私は惜み度かつた。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
ほしいのは——もしか出来たら——偐紫にせむらさき源氏雛げんじびな、姿も国貞くにさだ錦絵にしきえぐらいな、花桐はなぎりを第一に、ふじかた、紫、黄昏たそがれ桂木かつらぎ、桂木は人も知った朧月夜おぼろづきよの事である。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春信はるのぶ春章しゅんしょう歌麿うたまろ国貞くにさだと、豊満な肉体、丸顔から、すらりとした姿、脚と腕の肉附きから腰の丸味——富士額ふじびたい——触覚からいえば柔らかい慈味じみのしたたる味から
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
便所によって下町風な女姿が一層の嬌艶きょうえんを添え得る事は、何も豊国とよくに国貞くにさだ錦絵にしきえばかりには限らない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
神田明神前にささやかな水茶屋を営んで居る仁兵衛じんべえの娘お駒、国貞くにさだの一枚絵に描かれたほどの美しさで、享保明和の昔の、おせんふじにも優るだろうと言われた評判娘が
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
話してみると、ぞんざい口も、罪がなくってなまめかしくって、どこやら、国貞くにさだうつしという肌合はだあい
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男女混浴……国貞くにさだえがくとまではいかないが、それでも裸形らぎょう菩薩ぼさつが思い思いの姿態をくねらせているのが、もうもうたる湯気をとおして見えるから、与吉はもう大よろこび。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
清長きよなが型、国貞くにさだ型、ガルボ型、ディートリヒ型、入江いりえ型、夏川なつかわ型等いろいろさまざまな日本婦人に可能な容貌ようぼうの類型の標本を見学するには、こうした一様なユニフォームを着けた
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いわゆる女にしても見ま欲しいという目眩まぶしいような美貌で、まるで国貞くにさだ田舎源氏いなかげんじの画が抜け出したようであった。難をいったら余り美くし過ぎて、丹次郎たんじろうというニヤケた気味合きみあいがあった。
国貞くにさだの女が清長きよなが歌麿うたまろから生れたのはこういう径路けいろを取っている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
国貞くにさだゑがく絵草紙ゑざうし
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
自分は春信はるのぶ歌麿うたまろ春章しゆんしやうや其れよりくだつて国貞くにさだ芳年よしとしの絵などを見るにつけ、それ等と今日の清方きよかた夢二ゆめじなどの絵を比較するに、時代の推移は人間の生活と思想とを変化させるのみならず
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
国貞くにさだの画がざっと二百枚、かろうじてこの四冊の、しかも古本と代ったのである。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
関係かかりあった女は何十百人、武家の秘蔵娘から、国貞くにさだの一枚絵になった水茶屋の女、松の位から根引いた、昼三ひるさん太夫たゆうまで、馴れ染めの最初は、ことごとく全身の血をたぎらせるような、魅惑を感じたにしても
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
納戸なんどへ入って、戸棚から持出した風呂敷包ふろしきづつみが、その錦絵にしきえで、国貞くにさだの画が二百余枚、虫干むしぼしの時、雛祭ひなまつり、秋の長夜ながよのおりおりごとに、馴染なじみ姉様あねさま三千で、下谷したや伊達者だてしゃ深川ふかがわ婀娜者あだもの沢山たんといる。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
豊国が板画の最良なるものは大抵寛政年代のものにして享和に及ぶや美人画の人物およびその容貌等は固定せる歌麿の形式に倣ひついで晩年に至りては画風全く頽廃たいはいして遂に門人国貞くにさだらのあとしたがはんとするの傾きありき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
国貞くにさだ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)