くる)” の例文
少年の方は、学校を出てから何になろうか、自分の才能がどんな仕事に向くだろうかという事を発見し難く、モヤクヤとくるしんでいる。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
おお、O'Grieオーグリー、なに事にも印度民族はこのディレンマにくるしめられます。信教と、民族発展とに背反するものを持つ……。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
介が動物を挟みくるしめた記事は例の『戦国策』の鷸蚌いつぼうの故事もっとも顕われ、其碩きせきの『国姓爺こくせんや明朝太平記』二の一章に
この一例をもってみても諸色しょしきが上がるの下がるの、米価が騰貴とうきしたために貧民ひんみんくるしむの、あるいは暴徒が起こるの
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
市川は再び老人に返答をうながしたけれども老人は、とみに返事ができないでくるしんでいる様子を小林師範がかたわらから見て
今頃秋風の吹く近江の田舎町の雑用宿で立ち居かなわずくるしんでいるだろう海老団治の父親の上を考えて今松は、いても立っていられない心持ちがした。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
これ決して両国生霊の塗炭にくるしむの状を見るに忍びずしてかくのごとく道徳上の職分を尽くすものにあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
五、汝今衣食を得るにくるしむ、しからば汝も空の鳥、野の百合花ゆりのごとくなりて汝の運命を天に任せよ
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その庇廂の大和やまとがき結いに吹きさらされて疝癪せんしゃくも起すことある職人風情ふぜいは、どれほどの悪いごうを前の世になしおきて、同じ時候にひととは違い悩めくるしませらるるものぞや
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時将軍はすでに疲れ切っていた。極度にくるしんで、精神も次第に恍惚こうこつとなるほどだった。それでも人にたすけられて、いつものように正しくすわり直し、肩衣を着けた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天狗樺や丈の高い偃松にくるしめられ、二時間を費して漸く聖岳の直下に達することを得た。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
自然は暴虐を専一とする兵馬の英雄の如きにあらず、一方に於て風雨雷電を駆つて吾人をくるしましむると同時に、他方に於ては、美妙なる絶対的のものをあらはして吾人を楽しましむるなり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
世の飢饉にい、女の夫、妻に告ぐらく、わが家貧窮して衣食にくるしむ、汝はよそへ行き自活の処を求むべし、と。
欧州の政治家らがその妄迷の政略をもってその人民をくるしめ、その邦家を悩まし、かの百姓ひゃくせいをして
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いずれも小さいのでさしたる困難はない。それでも水際ばかりは通れないので、或時は右側の藪を濳って倒木にくるしめられ、或時は左側の草の生えた崖を登って上を廻ったりなどする。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
而して其中間にはさまれたる以太利イタリーは遂に如何いかならむ。邦運久しく疲れて産業興らず。民多くは一種固有の疾疼しつとうくるしむ。而して国境を守るの兵は日に多く、せたる民衆に課するの税斂ぜいれんは月に加ふ。
想断々(2) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
インドにドールとて群を成して虎をくるしむる野犬あり縞狼ヒエナの歯は甚だ硬いと聞く、それらをジャッカル稀に角ある事実と混じてかかる談が生じただろう。
外国の事情を知らずしていたずらに海岸を守り貧窮にくるしみ候は誠に失策にこれ有るべく、英吉利イギリス仏蘭西フランスなどの小国にてさえ万里の遠海へ渡り人を制し候は、皆々航海の益に御座候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
また河童が馬をくるしむる由諸方で言う。支那でも蛟が馬を害した譚が多く、『埤雅ひが』にその俗称馬絆とあるは、馬をつなぎ留めて行かしめぬてふ義であろう。
わが邦にも狐狸を取り尽くして兎跋扈ばっこを極め農民くるしむ事しばしばあるが熟兎の蕃殖はまた格別なもので
それにかいに手を挟まれてくるしむ内、潮に溺れ命を失うたのも猿田彦は老猴を神としたに相違ない証拠だ。
明日霊銑むらの少年と湖辺に鼓噪こそうすると須臾しばらくして波湧き激声雷のごとく、二牛あいせるを見るにその一いとくるしんで腹肋皆白し、霊銑後の蜃にてると水血に変じ
生来この藻は流水や噴泉で不断あらわるる処に生えるがその胞子が偶然止水中に入ってくるしんだ余り一計を案じ魚に託生してその魚がおよぐとちょうど生活に必要ほどな振動を
『日本紀』七に、日本武尊信濃の山中で山神の化けた白鹿に苦しめられたが、ひるを以てこれを殺し、道を失うてくるしむ時白犬に導かれて美濃にづ、とあれば、同じ白でも鹿は悪く犬は善いと見える。