名告なのり)” の例文
相手の水司又市は今はような身の上か知れんが、何でも腕の優れた奴だに依って、決して一人で名告なのり掛ける事は成らぬぞ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前に廻って、名告なのり掛けて、生命の与奪やりとりをすると云うに、かたきの得ものを用意しない奴があるものか、はははは、馬鹿だな。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然るところさる承応二年六丸殿は未だ十一歳におわしながら、越中守に御成り遊ばされ、御名告なのり綱利つなとしと賜わり、上様の御覚おんおぼえ目出たき由消息有之、かげながら雀躍じゃくやく候事に候。
今日の語で言えば上田は氏名であるけれどもこの男にも別に親の付けてくれた尊い名告なのりはあったので、その名告と上田の三郎とを合せたものを名字と言うのもすでに誤りであるが
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ものいはゞ振切ふりきらんずそでがまへあざけるやうな尻目遣しりめづか口惜くちをしとるもこゝろひがみか召使めしつかひのもの出入でいりのものゆびればすくなからぬ人數にんずながら一人ひとりとして相談さうだん相手あひてにと名告なのりづるものなし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
己に名告なのりをしろと云うのかい。
蒟蒻こんにゃく蒲鉾かまぼこ、八ツがしら、おでん屋のなべの中、混雑ごたごたと込合って、食物店たべものみせは、お馴染なじみのぶっ切飴きりあめ、今川焼、江戸前取り立ての魚焼うおやき、と名告なのりを上げると、目の下八寸の鯛焼たいやきと銘を打つ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文久二年に鹿太は十五歳で元服して、額髪ひたひがみり落した。骨組のたくましい、大柄な子が、大綰総おほたぶさに結つたので天晴あつぱれ大人おとなのやうに見えた。通称四郎左衛門、名告なのり正義まさよしとなつた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
たしかに相違えと思うところへ、お二人で尋ねて来てくだすったのは、親子の名告なのりをしてくんなさるのかと思ったら、そうで無えから我慢が出来ず、私の方から云出したのが気に触ったのか
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
金剛杖こんごうづえを棄置いて、腰のすわらぬ高足をどうと踏んで、躍上おどりあがるようにその前を通った、が、可笑おかしい事には、対方さき女性にょしょうじゃに因って、いつの間にか、自分ともなく、名告なのり慇懃いんぎんになりましてな。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余所よそながら昔の罪を償おうとの了簡であるに相違ないが、前非ぜんぴを後悔したなら有体ありていに打明けて、親子の名告なのりをすればまだしも殊勝だのに、そうはしないで、現在実子と知りながら旧悪を隠して
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)