吉野よしの)” の例文
王子おうじ宇治うじ柴舟しばぶねのしばし目を流すべき島山しまやまもなく護国寺ごこくじ吉野よしのに似て一目ひとめ千本の雪のあけぼの思ひやらるゝにやここながれなくて口惜くちおし。
悩ましい日の色は、思い疲れた私の眼や肉体を一層懊悩おうのうせしめた。奈良ならからも吉野よしのからもいたるところから絵葉書などを書いて送っておいた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
初瀬はつせ吉野よしの宮古みやこの沈没などをも考えて、「はたして最後の勝利を占めることができるだろうか」という不安の念も起こった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ある一人の女は東京の実践女学校に居た者で先生の講演を聴いた事があると和田垣博士に話して居た。又一人馬場吉野よしのと云ふ愛くるしい十二歳の娘が居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
若手の芸妓が綱をとって花車だしき出され、そのあとへ、先頭が吉野よしの太夫、殿しんがりが傘止めの下髪さげがみ姿の花人はなんど太夫、芸妓の数が三、四十人、太夫もおなじ位の人数
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
精出して養生して、来春らいはるはどうか暇を都合して、おっかさんと三人吉野よしのの花見にでも行くさ——やアもうここまで来てしまッた。疲れたろう。そろそろ帰らなくもいいかい
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
たしかに日本の桜花は、風に身を任せて片々と落ちる時これを誇るものであろう。吉野よしの嵐山あらしやまのかおる雪崩なだれの前に立ったことのある人は、だれでもきっとそう感じたであろう。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
大正十四年八月四日の朝奈良の宿を立つて紀伊の国高野山かうやさんに向つた。吉野よしの川を渡り、それから乗合自動車に乗つたころは、これまでの疲れが幾らか休まるやうな気持でもあつた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
吉野よしのの滝をふさぎ止めるよりもなお不可能なことであるとそれらの女たちは言っていた。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それは今、建造中の巡洋艦『最上もがみ』『三隈みくま』『吉野よしの』『千種ちくさ』の四隻に関する秘密だ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
吉野よしのの花の盛りの頃を人は説くが、私はな菜の花がほとんど広い大和国中を彩色さいしきする様な、落花後の期を愛するのである、で私が大和めぐりをたのも丁度ちょうどこの菜の花の頃であった。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
この亀沢町の家の隣には、吉野よしのという象牙ぞうげ職の老夫婦が住んでいた。主人あるじは町内のわか衆頭しゅがしらで、世馴よなれた、侠気きょうきのある人であったから、女房と共に勝久の身の上を引き受けて世話をした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ほかの地方にはべつに名はないが、このかるいの方法は奈良県の吉野よしの地方、その他、処々ところどころの山村にまでのこっている。そうして一方の木製の台は、名も形も土地ごとにことなっているのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
吉野よしの象山きさやまぬれには、こゝだも さわぐとりのこゑかも
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
気がついてみると、今日は吉野よしの花会式はなえしきである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
上手より吉野よしの先生登場。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
吉野よしのだ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
吉野よしのを旗艦として、高千穂たかちほ浪速なにわ秋津洲あきつしまの第一遊撃隊、先鋒せんぽうとして前にあり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
雪間なき吉野よしのの山をたづねても心の通ふ跡絶えめやは
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)