さけ)” の例文
旧字:
あちらを向いていなさいと彼方を向かせ、卒然変な音を立て高くさけび、どこが一番疼いと聞かれたら、歯が最も疼むと答うるに限る。
言下ごんか勿焉こつえんと消えしやいばの光は、早くも宮が乱鬢らんびんかすめてあらはれぬ。啊呀あなやと貫一のさけぶ時、いしくも彼は跂起はねおきざまに突来るきつさきあやふはづして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そばに押し詰められているものは口々にどこだ、どこだとさけぶ。聞かれるものは、そこだそこだと云う。けれども両方共に焔の起る所までは行かれない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陳独秀! 貴方がご無事であることを祈願して、同志、万歳!と、彼女は晴れ渡った空に向ってさけぶのであった。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
その時張廷栄ちょうていえいという、県尹けんいんが新たに任について、ちょうのぼったところで、一疋の猴が丹※たんちの下へ来て、ひざまずいてさけんだ。張廷栄は不思議に思って、隷官れいかんに命じて猴の後をつけさした。
義猴記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さけび雲走り、怒濤澎湃どとうほうはいの間に立ちて、動かざることいわおの如き日蓮上人の意気は、壮なることは壮であるが、煙波渺茫びょうぼう、風しずかに波動かざる親鸞上人の胸懐はまた何となく奥床おくゆかしいではないか。
愚禿親鸞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
眠れる児童も我知らず夜具踏み脱ぐほど時候生暖かくなるにつれ、雨戸のがたつく響き烈しくなりまさり、闇に揉まるゝ松柏の梢に天魔のさけびものすごくも、人の心の平和を奪へ平和を奪へ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
偸児どろぼう!」と男の声はさけびぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小供は凡ての人の注意と同情をきつゝ、しきりに泣きさけんで御婆さんをさがしてゐる。不可思議の現象である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宮はすかさずをどかかりて、我物得つと手に為れば、遣らじと満枝の組付くを、推隔おしへだつるわきの下より後突うしろづきに、𣠽つかとほれと刺したる急所、一声さけびて仰反のけぞる満枝。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
突然、ユーストンの街路の銀鈴の響が尾をひいて、馬のひずめの音が静寂な空気の中に運命的なさけびをたてた。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
春秋繁露しゅんじゅうはんろ』におよそ卿ににえとるにこひつじを用ゆ。羔、角あれども用いず、仁を好む者のごとし。これをとらうれども鳴かず、これを殺せどもさけばず、義に死する者に類す。
眠れる児童こどもも我知らず夜具踏み脱ぐほど時候生暖かくなるにつれ、雨戸のがたつく響きはげしくなりまさり、闇にまるる松柏のこずえに天魔のさけびものすごくも、人の心の平和を奪え平和を奪え
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
呼べどさけべど、宮は返らず、老婢は居らず、貫一は阿修羅あしゆらの如くいかりて起ちしが、又たふれぬ。仆れしを漸く起回おきかへりて、忙々いそがはし四下あたりみまはせど、はや宮の影は在らず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
学者これを鳥中の燕に比したほど軽捷けいしょうで、『呂覧』に養由基ようゆうき矢を放たざるに、猨、樹を擁してさけび、『呉越春秋』に越処女が杖を挙げて白猨に打ちてたなどあるは
今度は黒雲のはじを踏み鳴らして「肉をくらえ」と神がさけぶと「肉を食え! 肉を食え!」と犬共も一度にえ立てる。やがてめりめりと腕を食い切る、深い口をあけて耳の根まで胴にかぶりつく。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
電話の男がどもってさけんだ。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
一つの猿が怖れ、痛み、もしくは憂いてさけぶ時は一同走り往きてこれを抱え慰めたと。
と、妾はさけぶのでした。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)