取着とッつき)” の例文
「は、」と、うなずくとひとしく門を開けてすかして見る、と取着とッつきが白木の新しい格子戸、引込ひっこんで奥深く門から敷石が敷いてある。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真鍮しんちゅうの首環をがちゃがちゃと鳴らして、さらさらと畳を渡り、蝶吉のすそかすめて、取着とッつき階子段はしごだんへ、矢のごとくあがった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……くどいと不可いけない。道具だてはしないが、硝子戸がらすどを引きめぐらした、いいかげんハイカラな雑貨店が、細道にかかる取着とッつきの角にあった。私は靴だ。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くだんの次の明室あきまを越すと、取着とッつきが板戸になって、その台所を越した処に、松という仲働なかばたらき、お三と、もう一人女中が三人。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その段を昇り切ると、取着とッつき一室ひとま、新しく建増たてましたと見えて、ふすまがない、白いゆかへ、月影がぱっと射した。両側の部屋は皆陰々いんいんともしを置いて、しずまり返った夜半よなかの事です。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、上靴を穿かせて、つるつるする広い取着とッつきの二階へ導いたのであるが、そこから、も一ツつかつかと階子段はしごだんあがってくので、つれの男は一段踏掛けながらあわただしく云った。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小さな帳場格子の内からと浴衣のなりで立つとひとしく、取着とッつき箪笥たんすのほのめく次の間のへだて葭簀よしず蓮葉はすはにすらりと引開けて、ずっと入ると暗くて涼しそうな中へ、姿は消えたが
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンにかまち取着とッつきの柱にもたれた浅黄あさぎ手絡てがら此方こっちを見向く、うらわかいのとおもてを合わせた。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取着とッつきの壁が残って、戸棚が真紅まっか、まるで毛氈もうせんを掛けたような棚を釣った上と下、一杯になって燃えてるのを私あお宅を行き抜けにお出入のかなったおかげにゃ、要害は知ってまさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふもとからあがろうとする坂の下の取着とッつきところにも一本ひともと見事なのがあって、山中心得さんちゅうこころえ条々じょうじょうを記した禁札きんさつ一所いっしょに、たしか「浅葱桜あさぎざくら」という札が建っていた。けれども、それのみには限らない。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
片山津かたやまづ(加賀)の温泉宿、半月館弓野屋ゆんのやの二階——だけれど、広い階子段はしごだんが途中で一段大きくうねってS形に昇るので三階ぐらいに高い——取着とッつきドアを開けて、一人旅の、三十ばかりの客が
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう少し辛抱おしと、話しながら四五町、土橋を渡って、えのきと柳で暗くなると、うちがあります。その取着とッつきらしいのの表戸を、きしきし、その若い人がやるけれど、開きますまい、あきません。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暑さの取着とッつきの晩方頃で、いつものように遊びに行って、人が天窓あたまでてやったものを、業畜ごうちく悪巫山戯わるふざけをして、キッキッと歯をいて、引掻ひっかきそうな剣幕をするから、吃驚びっくりして飛退とびのこうとすると
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)