半眼はんがん)” の例文
よるの風は盃のひやふちに似たり。半眼はんがんになりて、口なめずりて飮み干さむかな、石榴ざくろの汁を吸ふやうに滿天まんてんの星の凉しさを。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かれはその眼を半眼はんがんにひらき、周囲のさわがしさとはまるで無関係に、湯ぶねのすみに、黙然もくねんとして首だけを出していることがよくあった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しぜん心もからだもこわばッてくる。——と気づいて彼はしずかに呼息をなだめた。そして師の疎石和尚そせきおしょうのことばを心に、ひとみも半眼はんがんに細めていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらくして、その半眼はんがんに閉じた目は、斜めに鳴鶴なきつるさきまで線を引いて、その半ばと思う点へ、ひらひらと燃え立つような、不知火しらぬいにはっきり覚めた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼を半眼はんがんに閉じて死んだようになっておった。風は始終むきが変って、或は清新な空気を吹付けることもあれば、又或は例の臭気に嗔咽むせさせることもある。
今日きょうは九月二十七日、城山没落ぼつらくは三十三年前の再昨日さいさくじつであった。塩田君はやおら琵琶をかかえ、眼を半眼はんがんに開いて、がい一咳。外は天幕総出で立聞く気はい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
右の眼は初月みかづきのような半眼はんがん、それに蓬蓬ぼうぼうの髪の毛、口は五臓六腑が破れ出た血にまがわして赤い絵具を塗り、その上処どころ濃鼠こいねずの布で膏薬張こうやくばりをしてあった。
お化の面 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ぐるりと廻して、さて自分の繪の前に立つた。眼を半眼はんがんにして、虚心きよしん平氣へいきの積で熟視する。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
道益は半眼はんがんになって聞いていたが
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あざやかなる剣を舞わす派手技はでわざよりは、まずもって剣前に、半眼はんがんの心をいたすこと夕雲工夫の奥伝おくでんとする。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半眼はんがんにした、まゆにはくろまじつたけれど、あわなすつたていに、口許くちもとからおとがひへ、みじかひげみなしろい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれは半眼はんがんに眼を開いていた。それは内と外とを同時に見ているような眼であった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
岡本は半眼はんがんになっていた。半ちゃんはもう待っていられなかった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
半眼はんがんにして辿たどりゆくその胴腹どうばらの波だちに
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
わかっているといいながら、小文治のワクワクしているむねのうちもさっしなく、居士はゆうぜんとむくの木のに腰をすえて、目を半眼はんがんにとじ、あご銀髯ぎんぜんをやわらかになでている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半眼はんがんにして辿たどりゆくその胴腹どうばらの波だちに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
旅僧たびそう半眼はんがんふさぎたるひらきて
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夜鳥の水音にも、ふと耳をたて、そしてまた半眼はんがんにもどっていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)