午飯ひる)” の例文
なにしろ、お医者に言われると、ちゃんと、もう十年にもなりますでしょう、うちにいれば、お午飯ひるは、ビフテキ一皿と、葡萄ぶどう六顆むっつばかり。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「なる程さう聞いてみると食べたやうだわい。うん、食べた/\、たしかにお午飯ひるは食べた。いや、飛んでもない事を言つて済まなかつたよ。」
玄關と並んで開け放たれた臺所の上り口には、家族が多いと見えて、午飯ひるの食器の汚れものがずらりと置き並べてあつた。
古鏡 (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
午飯ひるがすむと、ちょっと一服する。誰も大してはずんだようなようすは見せないが、すくなくとも、不愉快そうではない。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「お前たちもお午飯ひるかえ。もう少し早いとお酌でもして貰うものを、惜しいことをしたっけな」と、半七はまた笑った。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「はははは、松が大層待っていました。先生のおさかなを頂こうと思って、お午飯ひるも控えたって言っていましたっけ。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「夕方までに行けばいいのなら、お午飯ひるでもすましてからにしたら、どうだえ。手紙を見たからって、そういそいで行くこともあるまいじゃないかね。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「もうじき午飯ひるでしょう」と云ったが、躊躇ちゅうちょすると思いの外、あたかも自分の部屋へでも這入るような無雑作むぞうさな態度で、敬太郎の後にいて来た。そうして
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「このパンが、魔法のパンで、一口食べると、お午飯ひるを食べたぐらいお腹がふくれるといいな。そうすると、これだけ皆食べたら、食べ過ぎてお腹がはちきれそうになるはずだわ。」
と是から午飯ひるの支度を致して、午飯ひるはんべ終り、お定が台所で片附け物をして居ります処へ入って来ましたのは、茶屋町に居りますおぬいという仕立物をする人で、くは出来ないが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「さうね、お午飯ひる、早目にして行つて来ませう。四時頃には帰れませう。」
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
庄太郎は、弁当を持って行って、午飯ひるには帰らない。
「午飯ですつて。」下男はわざとしらばくれた顔をして笑ひ出した。「まあ、旦那様とした事が、お午飯ひる先刻さつき召しあがつたぢやございませんか。」
い天気の、この日も、午飯ひるすぎると、日向ひなたに古足袋のほこりを立てて店を出たが、ひょこりと軒下へ、あと戻り。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見せに行ってやらないと、土の下で婆さんが寂しがります。これでも生きているうちは随分仲がよかったんですからね。はははははは。ところで、あんたはお午飯ひる
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
思ひ立つたのはあさであつたが、新聞を読んで愚図々々してゐるうちにひるになる。午飯ひるべたから、出掛様とすると、久し振に熊本の友人がる。漸くそれを帰したのは彼是かれこれ四時過ぎである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「もうすぐお午飯ひるだのに。……でも、少しならもっておいでよ。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「お午飯ひるどころか、朝飯も、晩飯もあったものじゃアないわ。」
「あとで聞いたら何だとさ、途中の都合やら、何やかやで、まだその時お午飯ひるさえあがらなかった、お弱い身体からだに、それだもの、夜露に冷えてたまるものかね。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忘れもしません、ちやうど今から二千五百万年以前にも、檀那だんなは今日のやうに、手前どもの店でお午飯ひる
「私、お午飯ひるもいただきませんでしたの。」
……遅めの午飯ひるに、——潟でれる——わかさぎを焼くにおいが、淡く遠くから匂って来た。暖か過ぎるが雨にはなるまい。赤蜻蛉の羽も、もみじをちらして、青空に透通る。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、午飯ひるのおあつらえが持出されて、湯上りの二人と向合う、こちのあらいが氷に乗って、小蝦こえびと胡瓜が揉合もみあった処を見れば無事なものです。しかも女連おんなれんはビイルを飲む。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかげで腹あんばいも至ってよくなったし、……午飯ひるを抜いたから、晩には入り合せにかつ食い、大いに飲むとするんだが、いまね、伊作さんが渋苦い顔をして池をにらんで行きました。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と謹んで色には出ぬが、午飯ひる一銚子ひとちょうし賜ったそうで、早瀬は怪しからず可い機嫌。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
根岸ねぎし相坂あひざか團子屋だんごや屋臺やたいつた。……近所きんじよ用達ようたしがあつたかへりがけ、時分時じぶんどきだつたから、さゝゆきはひつて、午飯ひるますと、はら出來できたし、一合いちがふさけいて、ふら/\する。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
低声こごえでたしなめるように云った、(先刻のあんなもの)は——鮪の茶漬で——慶喜公の邸あとだという、可懐なつかしいお茶屋から、わざと取寄せた午飯ひるの馳走の中に、刺身は江戸には限るまい
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)