初夜しょや)” の例文
道々考えにふけっておりましたので、斗丈様の庵室へ行きついた時には、初夜しょや近い時刻になっていました。小門をくぐろうといたしました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうやって戸を押しあけたまま、御堂で初夜しょやを行っているうちに、何時なのだろうかしら、時の貝を四つ吹くほどになった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
とうとう初夜しょやの鐘が鳴った。それから二更にこうの鐘が鳴った。二人は露に濡れながら、まだ寺のほとりを去らずにいた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
予が辞去じきょの後、先生例の散歩さんぽこころみられ、黄昏こうこん帰邸きてい初夜しょやしんつかれんとする際発病はつびょうついたれず。哀哉かなしいかな
そうするうちにも、おんなほうでは、あめにもかぜにもめげないで、初夜しょやころになるとかならず願掛がんがけにまいり、熱誠ねっせいをこめて、はや子供こどもさずけていただきたいとせがみます。
前のも哥沢節の稽古に出でて初夜しょやすぐる頃四ツ谷まる横町よこちょうかどにて別れたり。さればわが病臥やみふすとは夢にも知らず、八重はふすま引明ひきあけて始めて打驚うちおどろきたるさまなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
町を流るゝ大川おおかわの、しも小橋こばしを、もつと此処ここは下流に成る。やがてかたへ落ちる川口かわぐちで、の田つゞきの小流こながれとのあいだには、一寸ちょっと高くきずいた塘堤どてがあるが、初夜しょや過ぎて町は遠し、村もしずまつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やがて定めの作法によってとなえごとがあり、または経文きょうもんが読まれるが、初夜しょやすなわち十時頃にはもう終って、神酒を下げて少しずつ戴き、ゆるりと一同が食事をしてもまだ夜中にはならない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
考えごとをしておりましたので。町の口へ参りましたころには、初夜しょや近くなっておりましたっけ。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
眼光鋭く、意気激しく、いづれもこぶしに力をめつつ、知らず知らずひじを張りて、強ひて沈静を装ひたる、一室にこの人数をれて、燈火の光ひややかに、殺気をめて風寒く、満州の天地初夜しょや過ぎたり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「はい」と佐介はちょっと考え、「初夜しょやには一とき(二時間)もございましょうか」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
本郷追分で駕籠を下りた頃にはとうに初夜しょやを過ごしていた。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)