分明ぶんみやう)” の例文
そして静かに諦聴たいちやうすると分明ぶんみやうに其の一ツのザアッといふ音にいろ/\の其等の音が確実に存して居ることを認めて、アヽ然様だつたかナ、なんぞと思ふ中に
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
未嘗いまだかつて承り及ばざる所に御座候へば、切支丹宗門の邪法たる儀此一事にても分明ぶんみやう致す可く、別して伴天連当村へ参り候節、春雷頻に震ひ候も、天の彼を憎ませ給ふ所かと推察仕り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見遣みやられ只今うけたまはる通り九助が裾に血の付て居るの鼻紙入が落てありしのとばかりでは甚はだ分明ぶんみやうならず然ばとく思慮しりよいたし事故明白に申立よと有りしにぞ九郎兵衞は神妙しんめうらしく徐々そろ/\かうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかれどもはなひらいて絢爛けんらんたり。昌黎しやうれいうるところ牡丹ぼたんもとむらさきいま白紅はくこうにしてふちおの/\みどりに、月界げつかい採虹さいこう玲瓏れいろうとしてかをる。はなびらごとに一聯いちれんあり。なるかないろ分明ぶんみやうにしてむらさきなり。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その迅雷じんらい風烈を放ち出す手は、また一隻の雀をだに故なくして地におとすことなきなり。わが久しき間の經歴は我前に現じて一瞬時の事蹟に同じく、神の扶掖嚮導ふえききやうだうの絲は分明ぶんみやうに辨識せられたり。
こは分明ぶんみやう老女おうなの首なりしなり。我はこのかちいろの顏、半ば開けるまぶた、格子の外に洩れ出でゝ風に亂るゝ銀髮を凝視して、我脈搏の忽ち亢進するを覺えき。われは眼を壁に懸けたる石版に注げり。
硝子ガラス戸から客間をのぞいて見ると、雨漏あまもりのあとと鼠の食つた穴とが、白い紙張りの天井てんじやう斑々はんぱんとまだ残つてゐる。が、十畳の座敷には、赤い五羽鶴ごはづるたんが敷いてあるから、畳の古びだけは分明ぶんみやうでない。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
砂利じやりに摺付しばらく泣伏なきふし居たりける越前守殿いなこれには何か深き仔細ありと見て取られ押返おしかへして如何に久八其方事御所刑しおきの儀は願はずとものがるゝ事に非ずさりながら公儀こうぎに於ては事實ことがら分明ぶんみやうならざる上は假にも御所刑しおきには爲給はず其方唯今申たるには千太郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わが始て居向ひしとき、姫は分明ぶんみやうに我を認むるさまなりき。かの老いたる猶太婦人の詞すくなく、くつした編めるも、わがためには一人の證人なり。されどアヌンチヤタは生れながらの猶太婦人にあらず。