ねが)” の例文
けれども彼らのあとに来る少年や幼童については、自分らの労苦の上に立って貰って、とにかく平担へいたんな道を安楽に歩かせたいとねがうのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
吾人ごじんは実にこの点において、彼らが太甚はなはだ相類するを認め、而して後の志士たる者、これについてみずかいましむる所あらんことをねがわざるを得ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
斯くの如き境遇の下に斯くの如き生活が在るという其の真相を窺いたいとねがっているに過ぎない。僕等はこれを以て芸術家の本分となしている。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いましふ所の如くば、の勝たむこと必ずしからむ。こころねがふは、十年百姓をつかはず、一身の故を以て、万民おほむたからわづらはしいたはらしめむや。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
村松検事に世話になっていた人たちは、水田検事の取調べに対して、もっといろいろ反駁してくれることをねがっていた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
挨拶があった翌日あくるひから余は自分の寝ている地と、寝ているへやを見捨るのが急に惜しくなった。約束の二週間がなるべくゆっくり廻転するようにとねがった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああいう識見抱負を持った人が今日の知識を抱いて現代に出よということを私は始終ねがって居るのですが、不幸にしてそういう人が見付からぬのは実に残念です。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
茂吉さんの見出した新生命は、其知識を愛する——と言うより、知識化しようとねがう——性癖からして、『赤光』時代には概念となり、谷崎潤一郎の前型と現れた。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
なお傀儡子そのものの性質、変遷、末路等に至っては、編を改めて記述するの機あるべきことをねがう。
花のあしたを山に迷ひ、月のゆふべを野にくらすなど、人には狂へりと言はるゝも自から悟ることを知らず、人には愚なりと言はるゝとも自から賢からんことをねがはず。
哀詞序 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
……西博士をわが学園の後任学長に任じて真に国民道徳顕現の源宗たらしめんことをねが
社会時評 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
宮は些少わづかなりともおのれの姿の多く彼の目に触れざらんやうにとねがへる如く、木蔭こかげに身をそばめて、打過うちはず呼吸いきを人に聞かれじとハンカチイフに口元をおほひて、見るはくるしけれども
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
天下のたみ寒き者多し独り温煖あたたかならんやとのたまいし。そうの太祖が大度たいどを慕い。あまねく慈善を施せしも。始め蛍の資本ひだねより。炭もやくべき大竈おおかまどと成りし始末の満尾まんび迄。御覧をねがうというよしの。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
惟うに、これ余一人の冀望なるに止まらず、恩人隈公・校長・議員・幹事及び講師諸君も、ひとしくこの冀望をいだき、共に本校の独立をねがい、共に他の干渉を受けざるを望むならん。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
ねがふところのものは総べての木が目隠しの役目を全うして呉れることである。
発行所の庭木 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
ねがはくは其事のいつはり妄にてあれかしと日比ひごろ念じまゐらせし甲斐も無う、さては真に猶此裟婆界しやばかいに妄執をとゞめ、かの兜卒天とそつてんに浄楽は得ず御坐おはしますや、いぶかしくも御意みこゝろばかり何に留まるらん
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
唯知れずにいてくれるようにとねがうばかりである。秘密を保つ方法と、また秘密があばかれた場合の事とはあらかじめ考える暇がない。それよりはむしろ考える能力がないのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
他の所論を玩味することなく、伝聞によりてみだりに批評を下すが如きことは慎んで戴かねばならぬ。ことにこと皇室に関するこの種の問題においては、一層の慎重をねがわねばならぬ。
道鏡皇胤論について (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
私は懊悩おうのうのたえ切れない苦しさを少しでも軽くしようとねがって、昼間出掛けようと思った先輩の須永助教授のところを訪い、一切を告白して適当な処置を教えて貰おうと決心しました。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一つは史家の参考に供して以てその研究の進歩をねがわんとする。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)