其辺そこら)” の例文
旧字:其邊
戦争以来日本にも其辺そこらぢゆうに成金が殖えたが、万事が吾がくによりもずつと大袈裟な米国では、その殖え方が一段とづば抜けてゐる。
見ると、誰が何うして投ったか、一條の小柄こずかが相手の武士の首筋を縫って、血は庭石も浮くばかりに其辺そこらをひたして居ります。
されば今日だけ厄介やっかいになりましょうとしり炬燵こたつすえて、退屈を輪に吹く煙草たばこのけぶり、ぼんやりとして其辺そこら見回せば端なくにつく柘植つげのさしぐし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何うも其辺そこらだろうと鑑定が附いていた、ま宜しいが、の松蔭並びに神原兄弟の者はなか/\悪才にけた奴ゆえ、種々いろ/\罠をかけて、わしが云ったことを
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
到底君達は嬢様のやうな立派な申分の無い淑女の配偶たる権利が無いんだから子。いつそ諦めて人物相応に其辺そこらの下宿屋か牛肉屋の女でも捜し給へ。なに、失敬極まると。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
いかにも淋しく感じましたがどうもして見ようしかたがない。何かりたいと思っても其辺そこらに草もなし。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
其辺そこらう場末の、通り少なき広い街路まちは森閑として、空には黒雲が斑らに流れ、その間から覗いてゐる十八九日許りの月影に、街路に生えた丈低い芝草に露が光り、虫が鳴いてゐた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、今度はまた新しい画絹の上に、蝌蚪おたまじやくしのやうなものをきかけたが、「駄目だ、駄目だ。」とぼやいてまた其辺そこらへおつり出した。
ジッと此方こなたの顔を見つめらるゝにきまり悪くなってト足離れ退くとたん、其辺そこらの畳雪だらけにせし我沓わがくつにハッと気がき、わけも分らずそのまゝ外へ逃げ出し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どうせ最うられんから運動がてら其辺そこらまで送って行こう」とムックリ起上って、そこそこに顔を洗ってから一緒に家を出で、津の守から坂町を下り、士官学校の前を市谷見附いちがやみつけまで
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
虱は慌てて其辺そこらひ回つたが、職人の掌面は職人の住むでゐる世界よりもずつと広かつた。虱は方角をそくなつて中指にのぼりかけた。
華尾高楠先生なんかも法律万能を鼻に掛けて法律智識の有無を人物の標準と心得ておるが、高が五六十頁か其辺そこらの筆記物の二十冊や三十冊や呑込んだ処で大人物とは恐入つたもんだ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
まあ其辺そこら塵埃ごみの無さゝうなところへ坐つて呉れ、油虫が這つて行くから用心しな、野郎ばかりの家は不潔きたないのが粧飾みえだから仕方が無い、おれおまへのやうな好い嚊でも持つたら清潔きれいに為やうよ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其辺そこらにある机や碁盤をえつちらをつちら持ち出して来て、平気でそれに腰を掛ける事で、几帳面な主人は、大抵が苦りきつて顔をしかめる。
れも其辺そこら勧工場くわんこうばで買へない高料たかい品を月に一遍位はきつと持つて来た子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
散銭はお上人に当てつけたやうに、其辺そこらをころころ転げ廻つてゐたが、いつの間にか草のなかに滑り込むで、そのまゝ姿を隠してしまつた。
蟻はすつかりべ酔つたが、それでも人間のやうに片手をひとの鼻先で拡げて金を貸せとも言はないで、唯もう蹣跚よろ/\と、其辺そこらを這ひ廻つてゐた。
其辺そこらの軒下や繁みのなかからは、内証話ないしようばなしや、接吻キツスに夢中になつてゐた雀や山鳩やが慌てて真赧まつかな顔をして飛び出した。
そして女中の持つて来た物尺を引手繰ひつたくるやうにして、日本と英吉利との距離を克明に測つてゐたが、暫くすると、地図と物尺とを一緒に其辺そこらり出した。
起き上つた久世氏は、うそうそ其辺そこらを嗅ぎ廻してゐたが、三井氏の姿が見えないと、その儘表へ飛び出した。
その露西亜人は汚れた手先を綺麗に水で洗つたが、さて濡手ぬれてを拭かうにも手帛ハンケチ一つ持ち合はさなかつたので、両手をぶら下げたまゝきよろ/\其辺そこらを見まはしてゐた。