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其位
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そのくらゐ
『
其位ぢや
滿足は
出來ないわ』と
痛ましげな
聲で
憐れな
愛ちやんが
呟いて、さて
思ふやう、『
何うかして
芋蟲を
怒ッぽくしない
工夫はないものかしら』
モウ二三
人来るまで待つては
居られぬ、
腹が
空て
耐らぬのぢや——
是は
菜めしと
間違たと
云ふ話です、
其頃は
商売ではなかつたから、
其位のものでござりましたらう。
まあ
嘘でも
宜いさよしんば
作り
言にしろ、かういふ
身の
不幸だとか
大底の
女はいはねばならぬ、しかも一
度や二
度あふのではなし
其位の
事を
發表しても
子細はなからう
病院などに
入るものは、
皆病人や
百姓共だから、
其位な
不自由は
何でも
無いことである、
自家にゐたならば、
猶更不自由を
爲ねばなるまいとか、
地方自治體の
補助もなくて
宗助は
笑ひ
出した。
彼は
其位吝嗇な
家主が、
屋根が
漏ると
云へば、すぐ
瓦師を
寄こして
呉れる、
垣が
腐つたと
訴へればすぐ
植木屋に
手を
入れさして
呉れるのは
矛盾だと
思つたのである。
私なども
其位な苦しみをして
漸く
斯ういふ
身の
上になつたのだ。と
云はれて
此人も
多助のいふことを
成程と
感心したから、自分も
何ぞ
商ひをしようといふので、
是から
漬物屋を初めた。
「
鰹舟で
儲けたら、
其位譯なささうなもんぢやないか」