全然すっかり)” の例文
少し様子を見てし悪いようなら森川さんを呼ぶ積りだった。けれども九時頃には全然すっかり直ってしまったから乃公は遊びに出掛けた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし顔はよく似ているから親子だろう。おれは、や、来たなと思う途端とたんに、うらなり君の事は全然すっかり忘れて、若い女の方ばかり見ていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やれ自然ネーチュールがどうだの、石狩川いしかりがわは洋々とした流れだの、見渡すかぎり森又た森だの、堪ったもんじゃアない! 僕は全然すっかりまいッちまいました。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あまりのことに千利休は全然すっかり顔色を失ったが、心配の余り明日あすとも云わずその夜の中に御殿へ伺候し強いて秀吉に謁を乞い事の始終を言上した。
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と言って、襦袢の袖口で眼を拭いてくれるから、私のことと婆さんのこととは理由わけ全然すっかり違っているとは知っていながら
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
全然すっかり力が脱けて了った。太陽は手や顔へ照付ける。何かかぶりたくもかぶる物はなし。せめて早く夜になとなれ。こうだによってと、これで二晩目かな。
「お勢を疑うなんぞと云ッておれ余程よっぽどどうかしている、アハハハハ。帰ッて来たら全然すっかりはなして笑ッてしまおう、お勢を疑うなんぞと云ッて、アハハハハ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おうい。樅原モミハラ一本やられたよ、全然すっかり絵描きだと思ひ込んだね。うまく担がれたよ。君もまるで変つたもんだね。すつかり肝胆相照したよ。降りておいで。よう。降りて来ないか——」
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
昔はこの凹所に水が溜っていて海だったのだが、永い年月の間に全然すっかり乾き切って終ったんだ。しかし一度は海だったのだから、天文学者は矢張今でも海とか山とかいうように名称をつけて図を
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そうすれば全然すっかり分らん、分らんのを能く/\考えて見ると有りますワエ此通り髪の毛に癖の附く結い方が、エ貴方何うです、此癖は決して外では無い支那人ですハイ確に支那人の頭の毛です
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
女「それに花火の仕掛ものなどは昔とは全然すっかり違ってしまいました」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうでしょう、その碁の局面を全然すっかり変えて了ったら——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宜いか、今日で此の船の鏽落しも全然すっかり済む。
かんかん虫 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから話して一時間もつと又喫驚びっくり、今度は腹の中で。「いったいこの男はどうしたのだろう、五年見ない全然すっかり気象まで変ってしまった」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
眼がう。隣歩きで全然すっかり力が脱けた。それにこのおッそろしい臭気は! 随分と土気色になったなア! ……これで明日あす明後日あさってとなったら——ええ思遣られる。
そうして全然すっかり夜が明けた時、一人の立派な若武士が、弁才坊の家を訪れた。他ならぬ森右近丸であった。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まあ、自分の勝手なお饒舌しゃべりばかりしていて、おかん全然すっかりちゃった。一寸ちょっと直して参りましょう。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「もう全然すっかりんですよ。いいけれども、何か薬を当てがってもう一日寝かして置きましょう。又何をするか知れませんから其方が安全です。彼様ああいう子は床の中へ入れて置きさえすれば間違ないです」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「叔父さん、まだ房ちゃんは全然すっかりくなりませんかネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老人連、全然すっかりれ込んでしまった。いつにも大河、二にも大河。公立八雲やくも小学校の事は大河でなければ竹箒たけぼうき一本買うことも決定きめるわけにゆかぬ次第。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それが全然すっかり静まったのは夜も明け方に近い頃で、その結果はどうかと云うに、むしろ諏訪藩の負けであった。小屋者にも浪士達にも、大半逃げられてしまったのであった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
僕には何のことか全然すっかりわからないから、驚いて父の顔を仰ぎましたが、不思議にも我知らず涙含なみだぐみました。それを見て父の顔色はにわかに変り、益々ますます声をひそめて
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこでお前は働き出す、ところが俺は働かない。と云うのは働くのが嫌いだからさ。で全然すっかり元通りになる。だがしかしだ、そうは云っても、俺だってこれでも働いているよ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
冬になると雪が全然すっかり家を埋めてしまう、そして夜は窓硝子まどガラスから赤い火影ほかげがチラチラとれる、折り折り風がゴーッと吹いて来て林のこずえから雪がばたばたとちる
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
仮面の城主の纐纈の袍は、その光を全然すっかり収めた。平凡な紅色の衣裳となった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私はね、何もかも全然すっかり憶えていて、貴下の被仰おっしゃった事も皆な覚えていますの。」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「これで全然すっかり出来ました。昔の面影はございません。誰に逢っても大丈夫です。感付くものはありますまい。……おおおお何んと悲しそうな、貧しいお顔になったことか。孤貧の涙相でございます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
意外なのは暫時しばらあわぬ中に全然すっかり元気が衰えたことである、元気が衰えたと云うよりか殆ど我が折れて了って貴所の所謂いわゆる富岡氏、極く世間並の物の能く通暁わかった老人にって了ったことである
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
廊下を北の方へ遠退いて行く。廊下の外れは丁字形をなし、二筋の廊下が走っていたが、轆轤車は尼を乗せたまま、東の方へ辻を曲った。にわかに叫び声はかすかになったが、しかし全然すっかり消えはしない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何時いつしか心を全然すっかり書籍ほんに取られてしまった。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)