入水じゅすい)” の例文
それにしても越前屋の亭主が鯉を釣り損じて川に落ちたなどという出たらめをなぜ云ったのか。そうして、自分がなぜ入水じゅすいしたのか。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
建礼門院は、主上の御入水じゅすいを見届けると、今はこれまでと覚悟して、すずり温石おんじゃくを左右の懐に入れると、そのまま海に身を躍らせた。
十組みのうち八組みまでは大川へ入水じゅすいして、はかなくも美しい思いを遂げるものがあるところから、これを見張るための川目付であるが
姉妹きょうだい間に殺傷が行われて、姉の姿が見えなくて妹も入水じゅすいしたらしいという風評を耳にした刑事や巡査の一隊が東水の尾へ登って来たのは
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
筑後の山川村の滝の淵という所では、昔平家方のある一人の姫君が、入水じゅすいしてこの淵の主となり、今でも住んでおられる。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
石浦に往ったものは、安寿の入水じゅすいのことを聞いて来た。南の方へ往ったものは、三郎の率いた討手が田辺まで往って引き返したことを聞いて来た。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
入水じゅすいを企てたり、尼となって世を避けたりするのは、人間として贅沢な沙汰であるが、そういう贅沢を享楽し得られる女性が、浮世に幾人あることやら。
軽井沢にて (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
先立つ不孝は済まぬ事ではございますが、どうもお父さんの前へ面目なくってお顔が合わせられませんから、お父さんに先立って今晩入水じゅすい致し相果てます
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まる一昼夜、心当りを探し抜いた挙句あげく、思案に余って両国から、フラフラと入水じゅすいしようとしたのでございます
「不審だな。一番上の姉のお里は、同藩の市岡うじへ、嫁ぐ約束になった時、それを嫌って入水じゅすいしたのだから」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自害往生、焼身往生、入水じゅすい往生、断食往生等はその門徒に於ても誡め置かれたことであり、余人の行うべき行ではないが、信心の力の奇特は思い見るべきである。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女は、この帯はお店のお友達から借りている帯やから、と言って、帯をほどき、畳んで岩の上に置き、自分もマントを脱ぎ、同じ所に置いて、一緒に入水じゅすいしました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
舞台はあい愛する男女の入水じゅすいと共に廻って、女の方が白魚舟しらうおぶね夜網よあみにかかって助けられる処になる。再び元の舞台に返って、男も同じく死ぬ事が出来なくて石垣の上にあがる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
縊死いし入水じゅすいさえ心に描かずにはいられないような悔恨を、もし運命が送ったら! おお、彼はそれをいかばかり喜んだかしれない! 苦痛と涙も要するにやはり生活ではないか。
ただ自分は入水じゅすいする決心をして身を投げに行ったということが意識に上ってきた。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
国府津こうづの海に入水じゅすいしたほど、「恋」に全霊的であり、彼女は事業も名誉も第二義的のもので、恋を生命としていたものは、それに破れれば現世に生きる意義を見出せないとまでいっている。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お静への打擲ちょうちゃく折檻せっかんはむろんのことににらんだとおりで、今までも近所かいわいに評判なほどでしたが、ことに浪人者の不審なる入水じゅすい以後は
そこで滝口入道にも逢い、維盛の出家の様子、入水じゅすい前後の模様などを詳しく聞いた後、父と同じ道を熊野へと向った。
他愛もない痴話喧嘩の果てに、思いもつかない殺人罪を犯したので、かれもおどろいて入水じゅすいしたのではあるまいか。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
清左衞門は実に呆然ぼんやりして、娘は盗賊どろぼうの汚名を受けこれを恥かしいと心得て入水じゅすい致した上は最早世にたのしみはないと遺書かきおきしたゝめ、家主いえぬしへ重ね/″\の礼状でございます
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おのれのスパルタを汚すよりは、いかりをからだに巻きつけて入水じゅすいしたいものだとさえ思っている。
お豊は、言葉をはさんで、和歌山の大家の娘が入水じゅすいしたという怪談を打消そうとしたのでした。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、いずれにせよ、話を聞きながら、その時私は、青年の姉が入水じゅすいした池が、昔仕置き場があったり、僧が怪死したりした、その同じ因縁の池だということには、とんと気づかなかったのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「なに、入水じゅすいする?」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むろん自身はこっそりとそのまま泳ぎ帰って、さもそれを入水じゅすい行くえ不明なるがごとくに、妻女の口から近所かいわいに言い触れさせたのでありました。
新次郎は別に怪我もなかったが、お節が刃物をたずさえて狂い出したのを見れば、彼女が夫の久兵衛を殺害して、自分も入水じゅすいしたものと認めるのほかは無い。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
有夫の婦人と情死を図ったのである。私、二十二歳。女、十九歳。師走しわす、酷寒の夜半、女はコオトを着たまま、私もマントを脱がずに、入水じゅすいした。女は、死んだ。告白する。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
源三位頼政げんざんみよりまさ後裔こうえいもここに落ちて来た。熊野で入水じゅすいしたという平維盛たいらのこれもりもこの地へ落ちて来た。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
如何いかにも残念だから入水じゅすいしてお村を取殺とりころすなどと狂気きちがいじみたことを申し……それはまアしからぬこと、音に聞えたる大伴の先生故、町人を打ち打擲などをすることはないはず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それにしても、いけの大納言のように、頼朝を頼って都に行ったとばかり思い、宗盛卿、二位殿まで、何かと隔て心をお見せになっていたのだが、まさか、熊野でご入水じゅすいとは知らなかった。
駒形河岸裏の侠客きょうかく出石屋いずしや四郎兵衛が、日ごと夜ごとのようにこの大川筋で入水じゅすいする不了簡者達を戒めるためと
「殿のおたずねじゃ。つつまず言え。おのれ入水じゅすいの覚悟であろうが……」と、下部は叱るように言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの時の若い男女は、心中の方式については全く無知識であったこと、入水じゅすいをするにしても、どういう方法を取るのが最も安全で、且つ見事であったか、それを知らなかった。
今朝程万年橋の上に重三郎の衣類脇差印籠などが取捨てゝございまして、行方が知れませんから、重三郎は大切な御刀を取られて申し訳なく、万年から入水じゅすいしたものと見えます
いちどは薬品で失敗した。いちどは入水じゅすいして失敗した。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
維盛入水じゅすい
女持ちのこのふた品じゃ、かような品が浮いているからには、昨夜のうちに入水じゅすいした女があったに相違ない。
前後の事情からかんがえると、今度の縁談に対する怨みと妬みとで、梅と桜とが主人を殺して、かれら自身も一緒に入水じゅすいして果てたものと認めるのほかはなかった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは、二人が完全に、湖中に入水じゅすいを遂げたと知ったその日に、二人の供養があの臨湖の湖畔で営まれたこと、そうして、この供養の施主せしゅというのが、疑問の一人の女性であったということです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近所の海岸から入水じゅすいするか、山や森へ入り込んで劇薬自殺を企てるたぐいは、旅館に迷惑をあたえる程度も比較的に軽いが、自分たちの座敷を舞台に使用されると
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入水じゅすい投身なぞ、つまらぬ了見起こせしとも思われず、なにゆえの家出かただただ心労にたえず候。
「いずれも懐中にさしている品ばかりじゃ。このようなところへ捨てる道理がない。入水じゅすいいたした者の懐中から抜けて浮きあがったものに相違ないぞ。土手に足跡でもないか」
さうして、それはの梟娘が蛇体じゃたいに変じたのであらうと伝へられた。しかし彼女は最初からの蛇体であるのか、あるひは入水じゅすいのち龍蛇りゅうだと変じたのか、その議論は区々まちまちついに決着しなかつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
入水じゅすいの者はこの水底に沈んでおると見るはおしろうと考え、あのとおり水門から今もなおこちらへ濠水が流れ込んでおりますからには、このふた品もまた上から流れてきたものかもしれませぬ。
橋の袂には血に染みた鎌が捨ててあったばかりでなく、お園のあわせと襦袢の袖にも血のあとがにじんでいるのを見ると、かれはまず伊八を殺害し、それからここへ来て入水じゅすいしたものと察せられた。
真鬼偽鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入水じゅすいするときけがでもしたか、顔は一面の傷だらけで、娘かどうか、ちょっと見ただけでは見分けもつかないくらいでしたが、着物のがらも娘のものだし、年ごろも十七、八でござりましたし
次の問題はお北がどうして入水じゅすいしたかと云うことである。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あなたさまが深川で入水じゅすい女の替え玉を使ったことも、次郎松に金襴きんらん仕立ての守りきんちゃくを贈ったことも、てまえにはちゃんともうわかっているんでござりまするからな、手間を取らせずに