とど)” の例文
もう既に転歩に耐へず、追憶の視線はそぞろにも杖のとどまるほとりに還りて落ち、また五月は、ただ、草の葉の間に拾つて見る桐の花。
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
夜陰にとどろく車ありて、一散にとばきたりけるが、焼場やけばきはとどまりて、ひらり下立おりたちし人は、ただちに鰐淵が跡の前に尋ね行きてあゆみとどめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と読ましてあるが、これなども、第三句はやはり「両岸の猿声啼いてとどまらざるに」と読んで、呼吸をそのまま結句まで続けたいと思ふ。
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
僕はははの國になむとおもひて哭くとまをししかば、ここに大御神みましはこの國になとどまりそと詔りたまひて、神逐かむやらひ逐ひ賜ふ。
ラワルニゲリア人は鱷は犯罪ある者にあらずんば食わずとてこれをその祖先神または河湖神とし、殺さばそのとどまる水ると信じ
(『本生心地観経』に曰く、「心は流水のごとし。念々に生滅し、前後世において、しばらくもとどまらざるがゆえに」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
三七一 比丘よ、靜慮せよ、放逸なる勿れ、汝の心を妙欲にとどめざれ、放逸にして(熱)鐵丸を呑む勿れ、燒かるゝ時に至りて、是苦なりと叫ぶ勿れ。
法句経 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
太夫の手にもとどまらで、空にあや織る練磨れんまの手術、今じゃ今じゃと、木戸番は濁声だみごえ高くよばわりつつ、外面おもての幕を引きげたるとき、演芸中の太夫はふとかたに眼をりたりしに
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行くにも、とどまるにも、覆面を取らぬ女……その生涯にはかぎりなき陰影がなければならぬ。道はちがうが、われも多年人を求むる身だ。こう思って兵馬が、新しい感興にられた時に
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この二馬は一和してとどまる、これふたつながら荒くて癖が悪く、いつつなを咬み切る、罪を同じゅうし過ちをひとしゅうする者は必ず仲がよいと答え
ここに伊耶那岐の大御神、いたく忿らして詔りたまはく、「然らば汝はこの國にはなとどまりそ」と詔りたまひて、すなはち神逐かむやらひにやらひたまひき二四
思わず渠の目はこれにとどまりぬ。出刃庖丁なり! 
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妓輩の主人生時は貴人とを成すが、一旦命しゅうすれば最卑民中にすらとどまるを許されず、口に藁作りのたづなませ、死んだ時のままの衣服で町中引きずり
今既に事済んだ上は転じて福を天下に行うべし、とどまる事まかりならずと言い終って忽然見えずなったとある。
今は怖るる事なし、思う所へ往けというから、外甥その法を行うて自ら美女に化し、相貌殊好、特に常倫に異なり。すなわち婆羅尼斯に往き王の園苑中にとどまる。
もしこの狗寺に入るを見ればことごとくとどまり低頭掉尾ちょうびすとある。タヴェルニエー等の紀行に、回教徒の厳峻な輩は、馬にさえ宗制通りの断食を厲行れいこうする趣が見える。
猪余儀なく虎しばらとどまり待て我祖父のよろい来って戦うべしとて便所に至り宛転ころがりて糞を目まで塗り往きて虎に向うと、虎大いに閉口し我まさに雑小虫を食わざるは牙を惜しめばなり
かねてこの王を侮り外出したら縛りに往くと言い来った四遠の諸国、王が城を出で苑にとどまると聞き大兵を興し捉えに来る。王城へ還らんとする中途に、蓮花咲き満ちた大池ありて廻り遠い。
来りて相問訊して一面にありて坐す、時に獼猴来りて婬を行わんと欲し、一々諸比丘の面を看る、次に愛するところの比丘の前に到り、とどまりてその面を諦視し、時にこの比丘心恥じ獼猴を視ず