井桁ゐげた)” の例文
お六が煮え立つた二度目の湯を持つて來てくれたので、直ぐ使へるやうにいつもの通りその大釜を井桁ゐげたの上へ置いたのが惡かつたんです。
けた少時しばし竹藪たけやぶとほしてしめつたつちけて、それから井戸ゐどかこんだ井桁ゐげたのぞんで陰氣いんきしげつた山梔子くちなしはな際立はきだつてしろくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
工學士こうがくしは、井桁ゐげたんだ材木ざいもくしたなるはしへ、窮屈きうくつこしけたが、口元くちもと近々ちか/″\つた卷煙草まきたばこえて、その若々わか/\しい横顏よこがほ帽子ばうし鍔廣つばびろうらとをらした。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
取て突退つきのけ名主手代を左右へ押分おしわけ動乎どつかすわりし男を見れば下に結城紬ゆふきつむぎの小袖二ツ上は紺紬こんつむぎに二ツ井桁ゐげた紋所もんどころつきし小袖を着五本手縞の半合羽はんかつぱ羽折はをり鮫鞘さめざやの大脇差を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
製材された板片の井桁ゐげたに積み上げられたものが、人に押されてばりばりとくづれ落ちる音がした。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
いつも 行く者の 心に つき添つて 離れない 脈搏 の 井桁ゐげた、それを縫つて
札幌の印象 (新字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
路の傍に田舎ゐなかには何処にも見懸ける不潔な肥料溜こやしだめがあつて、それからまきを積み重ねた小屋、雑草の井桁ゐげたの間に満遍なく生えて居る古いゐど、高く夕日の影に懸つて見える桔※はねつるべ、猶その前に
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
沸々ふつ/\として到るにふ、天そゝり立つ大嶽とはれか、眼前三四尺のところより胴切に遇ひて、ほとんど山の全体なるかを想はしむ、下界しばしば見るところの井桁ゐげたほどなる雲の穴よりあるいしわを延ばし
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
見ると井桁ゐげたの下のあたり、流しから溢れた水がこほつて、水垢離でも取らなければ、と思ふほどの濡れやうです。
東西南北に 確実な 井桁ゐげた(市の 動脈)を 打ち重ねた 北海の 首府——
札幌の印象 (新字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
井桁ゐげた栗材くりざいの頑丈なもので、この邊の井戸は深いせゐか、車も釣瓶つるべも誤魔化しのない立派なものです。
札幌は石狩原野の大開墾地に圍まれ、六萬の人口を抱擁する都會で、古い京都のそれよりも一層正しく、東西南北に確實な井桁ゐげたを刻み、それがこの都會の活きた動脈であるかの樣に強い感じを與へる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
井戸のふたを拂つて見ると、危ない井桁ゐげたに荒繩で吊られ、水肌すれ/\にブラ下がつて居るのは、蜘蛛くもの巣にかゝつた、美しいてふのやうな娘の姿——それはまぎれもないお筆の
灌木くわんぼくの葉と枯葉とに埋め殘されて、空井戸の口は黒々と見えて居りますが、古い御影の井桁ゐげたが崩れたなりに殘つて居るので、さすがに怪我やあやまちで墜ち込む心配はありません。
病氣のせゐだよ——ところで、澤庵石を井戸へ落したをもう一度くり返して、今度は井戸車を使つて井桁ゐげたの大釜を引つくり返した。仕掛けの綱は、物置の中に投り込んであつたよ。
曲者はさう言ひ乍ら、用意したらしい手燭と火打道具を井桁ゐげたの上に置くのでした。
山の手の井戸で、水肌までは四間あまり、釣瓶つるべは引上げて、井桁ゐげたの外に乾してあるのは、夏場でなければ滅多に使はないためでせう。それにしても、この凧糸のなぞは容易に解けません。
さう思つて見れば、ちかけた井桁ゐげたに、かすか乍ら泥足の跡が附いて居ります。
「行つて見よう。——その井戸の中が怪しい。井桁ゐげたの下まで泥だらけだ」
井桁ゐげたにつかまつて、井戸へ落ちるのだけは助かりましたが、氣が付いて見ると、水を汲む時立つ場所へ、繩でわなを仕掛けて置いて、はりを通して、繩の端を向うから引くやうにしてあつたんです。
「だから敷石をいだり、井桁ゐげたくづしたり、土藏の壁まで崩しましたよ」