五徳ごとく)” の例文
表面に小凹凸しょうおうとつがあると、その凸部の三点あるいは四点で台に接し、それが丁度五徳ごとくの脚のような役目をして卵をささえるはずである。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
するとその農家の内で私が見て変った感じを起しましたのは、五徳ごとくの横に積み立ててあるまきはヤクのふんでなくって芝草の根なんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今日けふ香取秀真かとりほづま氏の所にゐたら、茶釜のふた置きを三つ見せてくれた。小さな鉄の五徳ごとくのやうな物である。それが三つとも形が違ふ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
先生はこの日あたりのへやの中へ大きな火鉢を置いて、五徳ごとくの上に懸けた金盥かなだらいから立ちあが湯気ゆげで、呼吸いきの苦しくなるのを防いでいた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
七月七日は、七夕たなばたちなみ、玉礀ぎょっかん暮鐘ぼしょうの絵を床に、紹鴎じょうおうのあられ釜を五徳ごとくにすえ、茶入れは、初花はつはなかたつきが用いられた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羽後の金物かなものでは蔵戸の錠前や五徳ごとくの類などに見るべきものがあって、秋田、大館、花輪などの鍛冶屋で作りましたが、流行おくれの型となりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
膳部を下げた藤屋の二階には、江戸ものには珍しい丸行燈まるあんどんのともし灯をなかに、法外、大次郎、千浪の三人が、五徳ごとくの脚形に三つにひらいて坐っていた。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女が鉄瓶を小さい方の五徳ごとくへ移せば男は酒を燗徳利に移す、女が鉄瓶のふたを取る、ぐいと雲竜をしずませる
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこには額の穴から血膿ちうみを流して倒れている奥村一郎の姿があった。キラキラ光る拳銃ピストルがあった。煙があった。桐の火鉢の五徳ごとくの上に、なかば湯をこぼした鉄瓶があった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まいへもうしろへも廻る重宝ちょうほうな屏風で、反古張ほごばり行灯あんどんそば火鉢ひばちを置き、土の五徳ごとくふた後家ごけになってつまみの取れている土瓶どびんをかけ、番茶だか湯だかぐら/\煮立って居りまして
これよりようや米塩べいえんの資を得たれども、彼が出京せし当時はほとんど着のみ着のままにて、諸道具は一切屑屋くずやに売り払い、ついには火鉢の五徳ごとくまでに手を附けて、わずかに餓死がしを免がるるなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
北の国々は寒い地方ですから囲炉裏いろりとは離れられない暮しであります。それ故必然にで用いるもの、自在鉤じざいかぎとか、五徳ごとくとか火箸ひばしとか灰均はいならしなども選びます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その辺からラクガル湖の西の方を見ますと三つの島があって其島それがちょうど五徳ごとくの足のような形になって居る。よってその三島を名づけて五徳島といっておいたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
背のかど隅入すみいりで、厚みも多く形もよく、家のしるしなのかこれに瓢箪ひょうたん模様が一個入れてあった。つかもいい。だがそれだけではなかった。今まで見たどの五徳ごとくよりも美しい形のものがあった。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
今いった黒釉のほかに、赤楽風あからくふう柄附えつき焙烙ほうろくを作る。また漢時代のものを想わせるような厨子ずしも作る。共に形がいい。特に強さや確かさのあるのは釜戸(くど)と呼ぶ五徳ごとくの類である。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)