三越みつこし)” の例文
帳場格子ちょうばごうしからながめた向かいの下駄屋げたやさんもどうなったか、今三越みつこしのすぐ隣にあるのがそれかどうか自分にはわからない。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お増と二人で行きつけの三越みつこしなどで、お今に似合うような柄をって、浅井は時のものを着せることを忘れなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
程もなく三越みつこしから大きな箱が届きました。「何だろう」と思って開けましたら、燃立つような緋縮緬ひぢりめん白羽二重しろはぶたえの裏、綿わたをふくらかに入れた袖無しです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
日本橋の三越みつこしの玄関においてある、青銅のライオンと、よくにた形です。あれほど大きくありませんが、ほんもののライオンよりは、すこし大きいくらいです。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それなら丁度ようございますわ。三越みつこしへ行って、彼方あちらで入用な品物をそろえて参りますわ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三越みつこしで紅葉の真蹟展覧会が小波さざなみその他の主催で開かれてからモウ十年になる。それから以来紅葉の真蹟は益々ますます持てはやされて今では短冊一枚が三十円以上を値いしてるそうだ。
みんな金のあるところへ入るね。川口は三越みつこしを狙っていやがったが、この間到頭入ったよ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
閑人ひまじんの少ない世の中だから、午前はすこぶるすいている。三四郎は板の間にかけてある三越みつこし呉服店の看板を見た。きれいな女がかいてある。その女の顔がどこか美禰子に似ている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は夢に従姉いとこの子供と、三越みつこしの二階を歩いてゐた。すると書籍部とふだを出した台に、Quarto 版の本が一冊出てゐた。誰の本かと思つたら、それがもり先生の「かげ草」だつた。
本の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ芝居へ行って友達と運動場をぶらぶらするとか三越みつこし白木しろきへ出掛けて食堂で物を食い浅草あさくさの活動写真を見廻るといったような事がまず楽しみらしい。小言をいうと遂には反抗する。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私のとこい来なさる前に三越みつこしい買い物に行きなさったら偶然綿貫に会いなさったのんで、こいから柿内の姉さんとこ行て帰りにずっと笠屋町い廻るさかい待ってて欲しいうて別れなさった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みなさんのなかには、博物館はくぶつかんならべてあるものは金錢きんせんふことの出來できないといふことが、たゞ三越みつこし大丸だいまるなどのでぱーとめんと・すとあーとちがつてゐるところだとおもひとがあるかもれません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
三越みつこし白木屋しろきや売出うりだしと聞いて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
三越みつこしで買い物をした時に、この結び合わせた白銅を出したら、相手の小店員がにやにや笑いながら受け取った。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人の心を浮き立たすような笛やつづみの音が、かえでの林の中から聞えている。小松の植込の中からは、其処に陣取っている、三越みつこしの少年音楽隊の華やかな奏楽が、絶え間なく続いている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこには薔薇ばらの花の咲き乱れたみちに、養殖真珠の指環ゆびわだの翡翠ひすいまがいの帯止めだのが、数限りもなく散乱している。夜鶯ナイチンゲエルの優しい声も、すでに三越みつこしの旗の上から、蜜をしたたらすように聞え始めた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人込ひとごみの中に隔てられたまま松子の方には見向きもせず、日の光に照付てりつけられた三越みつこしの建物をまぶしそうに見上げながら、すたすた四辻よつつじを向側へと横ぎってしまったが、少しは気の毒にもなって
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女、三越みつこしの売出しにきて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
三越みつこしへ行ったら某県物産展覧会というのが開催中であって、そこでなんとか焼きの陶器を作る過程の実演を観覧に供していた。回転台の上へ一塊の陶土を載せる。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
薔薇ばらと指環と夜鶯ナイチンゲエル三越みつこしの旗とは、刹那に眼底を払って消えてしまった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくし、今日三越みつこしへ行きたいと思いますの。連れて行って下さらない?」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたしは三越みつこし白木屋しろきやの中の
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
丸善を出てから銀座のほうへぶらぶら歩いて行く事もあるが、また時々三越みつこしへ行く事がある。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日本銀行と三越みつこし
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
発病する四五日前、三越みつこしへ行ったついでに、ベコニアの小さいはちを一つ買って来た。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三越みつこしで陶工の作業を見た帰りの電車の中でこんな空想を起こしてみたが、あとになってもう一ぺん考え直してみると、陶工の仕事と学者の仕事との比較には少なからず無理なところがある。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
せんだって三越みつこしの展覧会でいろいろの人語をあやつる九官鳥の一例を観察する機会を得た。この鳥が、たとえば「モシモシカメヨカメサンヨ」というのが、一応はいかにもそれらしく聞こえる。
疑問と空想 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)