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一陣
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いちぢん
棟近き
山の
端かけて、
一陣風が
渡つて、まだ
幽に
影の
殘つた
裏櫺子の
竹がさら/\と
立騷ぎ、
前庭の
大樹の
楓の
濃い
緑を
壓へて
雲が
黒い。
吾等は
驚いて
立上る、
途端もあらせず!
響は
忽ち
海上に
當つて、
天軸一時に
碎け
飛ぶが
如く、
一陣の
潮風は
波の
飛沫と
共に、サツと
室内に
吹付けた。
傍に一
本、
榎を
植ゆ、
年經る
大樹鬱蒼と
繁茂りて、
晝も
梟の
威を
扶けて
鴉に
塒を
貸さず、
夜陰人靜まりて
一陣の
風枝を
拂へば、
愁然たる
聲ありておうおうと
唸くが
如し。
支へて、
堅く
食入つて、
微かにも
動かぬので、はツと
思ふと、
谷々、
峰々、
一陣轟!と
渡る
風の
音に
吃驚して、
數千仞の
谷底へ、
眞倒に
落ちたと
思つて、
小屋の
中から
轉がり
出した。