-
トップ
>
-
いちぢん
傍に一
本、
榎を
植ゆ、
年經る
大樹鬱蒼と
繁茂りて、
晝も
梟の
威を
扶けて
鴉に
塒を
貸さず、
夜陰人靜まりて
一陣の
風枝を
拂へば、
愁然たる
聲ありておうおうと
唸くが
如し。
支へて、
堅く
食入つて、
微かにも
動かぬので、はツと
思ふと、
谷々、
峰々、
一陣轟!と
渡る
風の
音に
吃驚して、
數千仞の
谷底へ、
眞倒に
落ちたと
思つて、
小屋の
中から
轉がり
出した。
渠の
前には、
一座滑かな
盤石の、
其の
色、
濃き
緑に
碧を
交へて、
恰も
千尋の
淵の
底に
沈んだ
平かな
巌を、
太陽の
色も
白いまで、
霞の
満ちた、
一塵の
濁りもない
蒼空に