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きみさま
忘られぬは
我身の
罪か
人の
咎か
思へば
憎きは
君様なりお
声聞くもいや
御姿見るもいや
見れば
聞けば
増さる
思ひによしなき
胸を
屋台の軒にも
牡丹のような紅い提灯がゆらめいて、「それおぼえてか
君様の、袴も春のおぼろ染……」瀧夜叉がしどけない
細紐をしゃんと結んで少しく胸をそらしたときに
とか
望み
給ふらんそは
又道理なり
君様が
妻と
呼ばれん
人姿は
天が
下の
美を
尽して
糸竹文芸備はりたるを
思ひ
給ふぞとさしのぞかれ
君様ゆゑと
口元まで
現の
折の
心ならひにいひも
出でずしてうつむけば
隠し
給ふは
隔てがまし
大方は
見て
知りぬ
誰れゆゑの
恋ぞうら
山しと
憎くや
知らず
顔のかこち
事余の
人恋ふるほどならば
思ひに
身の
痩せもせじ
御覧ぜよやとさし
出す
手を
家藏持參の
業平男に
見せ
給ふ
顏我等づれに
勿體なしお
退きなされよ
見たくもなしとつれなしや
後むき
憎らしき
事の
限り
並べられても
口惜しきはそれならず
解けぬ
心にあらはれぬ
胸うらめしく
君樣こそは
淺き
心と
思召すか
假令どのやうな
事あればとて
仇し
人に
何のその
笑顏見せてならうことかは
山ほどの
恨みも
受くる
筋あれば
詮方なし
君樣に
愛想つきての
計略かとはお
詞ながら
餘りなり
親につながるゝ
子罪は
同じと
覺悟ながら
其名ばかりはゆるし
給へよしや
父樣にどのやうなお
憎しみあればとて
渝らぬ
心の
私こそ
君樣の
妻なるものを