)” の例文
夢の間に軒の花菖蒲はなしょうぶも枯れ、その年の八せんとなれば甲子きのえねまでも降続けて、川の水も赤く濁り、台所の雨も寂しく、味噌もびました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その証拠に、同じ場所においても黒レーベルが最もよくびるのでもわかる(これに次いでは青レーベルがよくかびるものである)
まづしい店前みせさきにはおほがめかふわに剥製はくせい不恰好ぶかっかううをかはつるして、周圍まはりたなには空箱からばこ緑色りょくしょくつちつぼおよ膀胱ばうくわうびた種子たね使つかのこりの結繩ゆはへなは
アンテナはわずかに二メートルくらいの線を鴨居かもいの電話線に並行させただけで、地中線も何もなしに十分であったのが、捲線が次第にびたり
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
醤油を一合買つたんですけれど、煮るやうな物は何も買へませんからびてしまひましたよ。三升買つた糠で漬物を拵へてそればかり食べてますの。
女が来て (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
亜米利加アメリカを去る時ロザリンが別れの形見にくれた『フランシスカ伯爵夫人の日記』という、立派な羊の皮の表装は見るかげもなくびてしまいました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
びたりといえども蓬莱豆、むしばめりといえどもビスケットが、くまなく行き渡りうるはずはないのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その光りであたりを見まわすと、もう手入れ前の古屋敷とみえて、天井や畳の上にも雨漏りのあとがところどころびていて、襖や障子もよほど破れているのが眼についた。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
陰気な、鈍い、濁った——厭果あきはてた五月雨の、宵の内に星が見えて、寝覚にまた糠雨ぬかあめの、その点滴したたりびた畳に浸込しみこむ時の——心細い、陰気でうんざりとなる気勢けはいである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今年は朝顔の培養ばいように失敗した事、上野うえのの養育院の寄附を依頼された事、入梅にゅうばいで書物が大半びてしまった事、かかえの車夫が破傷風はしょうふうになった事、都座みやこざの西洋手品を見に行った事
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも其の影に映つてゐる間だけ、周三の頭から、びて、陰濕じめ/″\したガスが拔けて、そして其の底にはひの氣にめられながら紅い花のゆらいでゐるのを見るやうな心地になつてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
みな雨に打たれたためにひどくびていて、黴のためにねばりついていた。草はそのまわりに茂り、その上にまで伸びていた。パラソルの絹は丈夫だったが、その糸は一緒にくっついていた。
肉の臭気や織物の、びたにほひも知らぬげに
此宿はのぞく日輪にちりんさへも
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
丁度四歳の初冬の或る夕方ゆうかた、私は松や蘇鉄そてつ芭蕉ばしょうなぞに其の年の霜よけをし終えた植木屋のやすが、一面に白く乾いたきのこび着いている井戸側いどがわ取破とりこわしているのを見た。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
はぬうちからびたとけば……
山寺に仏も我もびにけり
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
びたうさぎぢゃ二十にんでもへぬ