あたま)” の例文
旧字:
それなり俯向いて黙りこんでいると、お初のあたまから履物まで素ばしこく眼を通していた琴子は、ふっと気が付いたように時計をみて
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「でもあの辺はうございますのね、周囲まわりがおにぎやかで」おゆうはじろじろお島の髷の形などを見ながら自分のあたまへも手をやっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一寸ちよつとらんなさい」と美禰子がちいさな声で云ふ。三四郎は及び腰になつて、画帖の上へかほを出した。美禰子のあたまで香水のにほひがする。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
としは二十八でありますが至って賢い男、大形おおがた縮緬ちりめん単衣ひとえものの上に黒縮緬の羽織を着て大きな鎖付の烟草入たばこいれを握り、頭は櫓落やぐらおとしというあたま
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ここの親方はへッついというあたまの見本を見せておいてくれた鍛冶屋かじやさん——表に大きな船板の水槽があって、丸子や琉金りゅうきんの美事なのが沢山飼養されていた。
「暫く、妾の様子を凝ツと睨んでゐたかと思ふと、いきなり、そんな妙なあたまの者に家に居られては迷惑だ——と斯うなのよ。えゝ母さんも、ちやんと傍にゐて……」
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
月代さかやきと鬚は近頃剃ったものらしいが、何を使ってどうして剃ったものか、アチコチに切込疵きりきずだらけで、ところマンダラに毛が残っているのが、ホコリだらけの町人あたま
揚句あげくの果に誰かが「あたまへ触っちゃいやだっていうのに。」と癇癪声かんしゃくごえを張り上げるが口喧嘩にならぬ先に窓下を通る蜜豆屋みつまめやの呼び声にまぎらされて、一人が立ってあわただしく呼止める
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「泣け泣け。肩なら、いつまででも貸してやる。……おお、何か落ちた、あたまの物が」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒲「さうしてあたま癖毛くせつけの具合がな、愛嬌あいきようが有つたぢやないか。デスクの上に頬杖ほほづゑいて、かう下向になつて何時いつでも真面目まじめに講義を聴いてゐたところは、何処どこかアルフレッド大王にてゐたさ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
虚言うそと坊主のあたまは、いったことはありません」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰だってえかくなって見違みちげえたね、屋敷姿は又別だね、此処こゝを斯ういう塩梅あんばいに曲げて、馬糞受まぐそうけ見たように此処にぺら/\下げて来たっけね、今日のあたまア違って
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時の写真を後年成人おとなになつた新吉は、英介の書類の箱から見出した。小園は夜会巻といふあたまで、椅子に正面を向いた祖父の背後に立ち、藤吉と新吉がその両脇に立つてゐた。
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
美禰子のあたまで香水のにおいがする。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火の燃え付きそうなあたまをして居るものも有り、大小を差した者も有り、大髷おおたぶさ連中れんじゅうがそろ/\花見に出る者もあるが、金がないのでかれないのを残念に思いまして、少しばかり散財ざんざいを仕ようと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)